芸能界に興味を持ったきっかけは、中学のときに自主制作した映画。自ら脚本・撮影・主演を務めた作品を校内で上映し、大きな拍手を浴びました。その快感に心奪われ役者の道へ。まだ駆け出しの頃は、いくつもオーディションを受けながら、アルバイトで生計を立てていたことも。同世代の俳優がスターダムに駆け上がるのを見つめながら、どうすれば売れるのか悶々と悩み考えた時期もありました。
そんな数年前の葛藤を思えば、今立っているのは、まさにあの日夢見た場所。しかし、磯村さんのまっすぐな眼差しに、そんな慢心の影はありません。

「過去の自分が思い描いた場所にいるという感覚はまだないです。今の自分に全然満足はしていない。もっと上に行きたいという想いは常にあるし、その強い気持ちを作品に向けるようにしています」

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今の20代は魅力的な俳優が百花繚乱。負けず嫌いを自認する磯村さんにとっては、焦りや闘争心に火がつくことも多いだろうと思って聞いてみたら、返ってきた言葉は意外なものでした。

「同世代の仲間たちの仕事に刺激はもらいますけど、闘争心はまったくなくて。僕の負けず嫌いが向くのはいつだって自分。自分ができないこと、やらなかったことに対してはどんどん自分を駆り立てていくけど、他の人にライバル心を抱くことは全然ない。と言うより、同世代の俳優仲間に対して思うのは、みんなで一緒に波に乗って、これからの芸能界に僕らの時代を築きたいなって。だからバチバチすることはない。結構平和主義なんです(笑)」

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スマートな横顔に、ちょっとはにかんだような笑みが浮かびます。その言葉を証明するように話してくれたのが、ある俳優仲間とのエピソードでした。

「『今日俺』が終わってから、仲野太賀くんとふたりで飲みに行ったんですけど。そこで太賀くんが言ってたです、『俳優はもっと自己プロデュースしなくちゃダメだ』って。確かに太賀くんを見ていると、お芝居はめちゃくちゃ上手いし、面白い作品に出てて、すごく素敵。それは太賀くんがちゃんと自分で自分をプロデュースしているからなのかなって。今だけブレイクしていてもしょうがない。僕は俳優を死ぬまで続けたいし、そのためにはしっかりと意志を持って戦わないと生き残れない。太賀くんの話を聞いて、もっと僕も自分で自己プロデュースできるようにならなくちゃって刺激をもらいました」


一過性のブレイクに踊らされたりはしない。熱狂の中心地にいながら、磯村さんは、誰よりも冷静に自分の未来を見据えていました。だからこそ、聞いてみたかった。今その胸の内に描く、ありたい俳優像とは――

「正直僕は、磯村勇斗なんてなくていいと思っているんです。この役いいねと名前を調べたら磯村勇斗だったって気づいてもらえれば、それでいい。磯村勇斗という俳優がいるんじゃなくて、Aという役がいて、Bという役がいて、Cという役がいる。そんなふうに思ってもらえるのが理想。変幻自在に、自由に変貌する。そういう俳優になりたいですね」

見習いコックも、凶悪ヤンキーも、蠱惑的な同性愛者も、とても同一人物が演じているようには思えなくて、多くの人が驚かされました。そう考えると、もうすでに私たちは彼の術中にはまっているのかもしれません。
磯村勇斗、26歳。次はどんな顔で私たちの心をさらってくれるのでしょうか。

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<ドラマ紹介>
ドラマ25『サ道』

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ⓒ「サ道」製作委員会

全国のサウナ―(サウナ好きな人々)にとってバイブル的存在である、タナカカツキ作の漫画「マンガ サ道」(講談社モーニングKC刊)を奇跡の実写ドラマ化。伝説のサウナ―を追って全国を旅する主人公・ナカタアツロウを原田泰造、「偶然、偶然!」が口ぐせの中年サラリーマン・偶然さんを三宅弘城、コンサル会社を経営する若手サウナ―・イケメン蒸し男を磯村勇斗が演じる。この3人をはじめ、伝説のサウナ―蒸しZ役の宅麻伸、主題歌「サウナ好きすぎ」(ワーナーミュージック・ジャパン)を担当したCorneliusら、出演者からスタッフまで自他共に認めるサウナ好きが集結。サウナ好きによるサウナ好きのための、そして観れば誰もがサウナに行きたくなる(!)サウナ伝道ドラマに仕上がっています。7月19日(金)より、毎週金曜深夜0時52分~1時23分放送。

撮影/塚田亮平
取材・文/横川良明
構成/山崎 恵
(この記事は2019年7月11日に掲載されたものです)
 
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