世間の枠に縛られず、自分を貫く生き方。『風の谷のナウシカ』などの意欲的な新作歌舞伎や『メタルマクベス』をはじめとするミュージカルで存在感を輝かせている表現者としての松也さんとは、通じる部分があるようにも思えます。

 

「僕の場合、作品に取り組ませていただくときに常に思っているのは、予測どおりのことをしても意味がないのではないかということなんです。作品全体でなくても、どこか違うことをやらないと、僕がやる意味がないのではないかなと。だからか、一か八かのチャレンジみたいなことに興味をもってしまうところが、どうしてもありますね」

昨年には、ミュージカルへの思いを同じにする山崎育三郎さん、城田優さんとのプロジェクト「IMY(あいまい)」を旗揚げするという新しい挑戦も。

 

「歌舞伎に限らず、演劇自体が好きなんです。ミュージカルにも出させていただくようになって、その魅力はもちろん、ミュージカルと歌舞伎にはかなり相通ずるものがあると感じています。だからこそ、日本人にしかできないようなミュージカルがあるのではないかなと。そんな思いが育三郎と優と合致したんです。歌舞伎のなかで何百年後に古典と言われる作品を僕たちの世代でもつくってみたいという夢が僕にはあるのですが、ミュージカルでも日本、あるいは世界で再演されるような作品を作ってみたい。その夢に一緒に向かっていく仲間として、IMYを立ち上げさせていただきました」


挑戦を続けてきた歌舞伎というDNAを受け継いで


歌舞伎が何百年にもわたって観客を惹きつけてきたのは、伝統を守りつつも時代に応じて常にアップデートがなされてきたから。そんな歌舞伎の世界をホームとする松也さんにとって、「新しい挑戦」は当然のことだとも話します。

「歌舞伎俳優であることと、新しい挑戦をすることの矛盾はゼロですね。むしろ『伝統芸能』と言われることが僕はあまり好きではないんです。もちろん歴史がありますし、伝統が受け繋がれてきたからこそ、僕たちがこうして舞台に立たせていただけているのですが、古典演目を教わり、受け継ぎ、また次世代に伝えるという継承の動作と同時並行して行われてきたのが、新作をつくるということなんです。それがあってこそ、お客様にも見続けていただけたのだと思っています」

たしかに、現在「古典」と呼ばれる演目も、初演時は「新作」でした。

「そこには作品を生み出す力、努力があったわけです。今後の歌舞伎のことを考えれば、新作を同時並行して創作することは必然。難しいことですが、新作をつくる上では何百年後に古典と呼ばれて何回も上演されるような作品をという気持ちで取り組んでいます。ですので、新しいことに挑むことも、新たなチャレンジというより、当然やっていかなくてはいけないことだと受け止めています」

歌舞伎俳優としての初舞台は5歳のとき。幼いころから子役として忙しく活躍していたためか、中学3年生での声変わりで一時離れたのをきっかけに、歌舞伎への興味が薄れた時期もあったそう。

「ですが高校1年生の時に復帰してからは、やはり楽しかったんです。父に『これからは歌舞伎一本で生きていきたいと思います』なんて宣言したタイミングはなかったのですが、好きでなければ、続けることはできなかったですね」

演者の“歌舞伎が好き”“演劇が好き”という気持ちは、見ている観客にも伝わってくるもの。時にはそれが感動を生む大きな源にもなるのです。

「舞台の素敵なところは、その時、その空間に起きている出来事として演じられることではないでしょうか。その空間を皆さんと共有する感覚は、やはり特有のものです。観客の方々もそういう部分を魅力に、舞台をご覧になっているんだと感じています」

ドラマやミュージカルなどで松也さんのパフォーマンスを見た人が、歌舞伎の舞台に興味をもつという豊かな循環も生まれていきます。

「今回の『課長バカ一代』は原作の漫画自体が劇画チックですから、通常のテレビドラマでは大げさ過ぎて通用しないような芝居をしているんです。顔アクションも大げさです(笑)。舞台的要素をふんだんに、惜しげもなく披露していますので、そんなところも楽しんでいただきたいですね」

 

<ドラマ情報>
『課長バカ一代』


野中英次による伝説的ギャグ漫画がまさかの実写ドラマ化。主演・尾上松也の端正な顔立ちを生かした原作テイストの再現ぶりが話題に。監督は守屋健太郎、村上大樹、近藤啓介。出演に木村了、永尾まりや、板橋駿谷、坂東彦三郎、市川左團次ら。ある日上司からいきなり昇進を言い渡され、「課長補佐代理心得」なる謎の役職に昇進した八神。彼に待ち受ける試練とは……⁈ 2020年1月12日(日)より、BSトゥエルビにて放送開始、ひかりTVにて順次配信中。

撮影/金 栄珠
取材・文/八幡谷真弓
構成/山崎 恵

 

 
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