映画評を書くために、公開中の映画『花と雨』を鑑賞した筆者は、主人公の吉田を演じる俳優に釘付けになってしまいました。『花と雨』は、吉田という少年が、実在の日本人ラッパー・SEEDAになるまでの葛藤と成長を描く音楽青春伝記映画。アンダーグラウンドのヒップホップシーンやストリートカルチャーを生々しく切り取っているので、非常に観客を選ぶ映画ではあります。それでもぜひこの作品に注目してほしいのは、吉田を演じる俳優、 笠松将さんを知ってもらいたいから!

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笠松将 1992年11月4日生まれ、愛知県出身。高校卒業後に俳優を目指して上京し、以降、多数の映画やドラマに出演。2020年は『花と雨』のほか、公開済み映画では『カイジ ファイナルゲーム』『明日、キミのいない世界で』に、今クールのドラマでは、ABCテレビ『この男は人生最大の過ちです』、テレビ東京『僕はどこから』、関西テレビ『エ・キ・ス・ト・ラ!!!』(第6話ゲスト)に出演。これ以降も『転がるビー玉』(2月7日公開)、『仮面病棟』(3月6日公開)、『ファンファーレが鳴り響く』(公開日未定)、Netflix『Followers』、WOWOW『有村架純の撮休』(第3話)が待機中。

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自分が満足して終わり、ではダメだと気づいた


急遽セッティングしてもらったインタビューの冒頭で笠松さんにそう告げると「ありがとうございます。(mi-mollet読者のような)年上のお姉さんたちにこの映画を観てもらうという想像をしていなかったので、このインタビューがそのきっかけになるとしたら嬉しいです」と、率直な心境を語ってくれた。

笠松将さんは現在27歳。愛知県名古屋市出身で、高校を卒業後に俳優を目指して上京した。

「正確に言うとスーパースターというか、わかりやすい『何か』になりたくて上京しました。歌が上手ければ歌手、サッカーが上手かったらサッカー選手でもよかったんですけど、自分には何もなかった。芸能界で何かできるとしたら役者かなと思ったんです」

上京する前の自分を、「ある程度のことはすぐに人並みにできるけれど、一番にはなれない。負けるくらいならやらない、負けそうなときは本気を出さずに『だって本気出してねえし』と言い訳をするタイプでした。夢も目標もなかったですし、めちゃくちゃかっこ悪いですよね」と振り返る。

18歳で上京してから映画初主演までかかった年月は9年。10代でスポットライトを浴びる俳優のほうが多い世界で、27歳まで踏ん張れたのはなぜなのか。

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「つらくて何回も辞めたいと思ったことはありますよ。特にオーディションで落ちると悔しさしかないですし。でも、負けたくないですから。今は、負けるのは嫌ですけど、ちゃんと負けることができるようになりました。一生懸命やったからって結果が必ずしもついてこないからこそ、負けたとしてもそこまでの過程が大事だということがわかったというか。この映画と出会って、いろいろなことから逃げなくなりました」

『花と雨』を経験して一番大きかったのは、「参加した作品をちゃんと見てもらえるようにならないといけない」という意識の変化。

「この作品に出合う前は、主演やスターといったポジションは行きたくて行けるわけではないから無理だと思っていました。世間的には知られていないけれど、仕事がないわけではなかったので生活はできていたんです。自分のその居場所をより質の高いものにしようと思っていたんですけど、完成したこの映画を観たときに、質の高いものを作っている自信があるなら、自分が満足して終わりではなくて、一人でも多くの人に作品を観てもらわないとだめだと気づいたんです。『笠松が出ているなら観てみようかな』と思ってもらえる存在になれたら、一緒に作ったキャストやスタッフ、作品に恩返しができるのではないかと。今の自分にはその力が圧倒的に足りないので、もっともっと自分が上がっていかないといけないなと思っています」
 
つまり笠松さんは、諦めていた主演やスターを目指し、その責任を引き受ける覚悟を決めたのだ。


自分を見つめ直すことで役と同期させていく


笠松さんが『花と雨』で演じた吉田はロンドンからの帰国子女。日本の高校に馴染もうとせず、ヒップホップに関しても日本を否定して「アメリカは〜」「ロンドンは〜」と発言するため、音楽仲間からもやや疎ましく思われている。周囲への反発や苛立ちを抱え、空回りする吉田の姿に、若き日の自分を重ねる大人は少なくないだろう。

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「吉田は面倒くさくて不器用なヤツです。そんな吉田を演じていると、『自分だったら?』という視点に勝手に変換されていきました。自分は何が嫌で、何に怒りを感じて、何をやりたいのかを見つめ直す作業。それは、Googleで自分から検索するのではなくて、予測変換ワードで勝手に検索されちゃう感覚でした。吉田という役を通して、そのときの自分の状況や精神状態を知っていく作業をすることで、どんどん役と自分の考え方が共有されていく。だから、いわゆる“役作り”をする必要がない。極端に言えば、どの役も全部自分なんです」

どんな役を演じても、笠松さんの肉体を通して吐き出される感情や想いに迷いや濁りがない秘密がわかった気がした。

 
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