今回は、社会における「恐怖」のお話し。
その昔『スクリーム』というB級ホラー映画があり、その斬新なアイディアで、世界的に大ヒットを記録しました。物語はある高校で起こった連続殺人事件を描いていくのですが、登場人物の中に映画オタクがいて、B級ティーンホラーのパターンを事細かに分析しており、それに基づいて事件の先を読んでいきます。つまり映画の中には「巨乳女子は一番最初に殺される」とか「別行動は死ぬフラグ」とか「一度捕まって疑い晴れたヤツが犯人」とか、そんな映画オタクが喜ぶ「B級映画あるある」が満載なのですが、その中で私の印象に最も残ったのはこれ。
「殺人鬼に追われるヒロインは必ず2階に逃げる」
あるある~。確かに『13日の金曜日』でも『エルム街の悪夢』でも『プロムナイト』でも『ハロウィン』でもそうだったかも~(※イメージです)。2階に逃げたら完全に追い詰められちゃうわけで、映画としてはヒロインの泣き叫ぶ姿を見せたいという、B級映画にありがちなスーパーご都合主義なわけですが。最近「それって意外とリアルなんじゃないか…」と思うようになってきた私。恐怖に支配されている時、人間は冷静な判断から最も遠ざかるような気がするから。コロナウイルスの流行で、まさに今感じていることです。
先日風邪を引いた私は、まさにそういう真っ只中におりました。はっきり言って「人混み」とは無縁の生活してるので感染するワケがないのですが、それでも熱が出て不安になり病院へ。結論としては「お腹の風邪です」とインフルエンザの検査すらしてもらえませんでした。事なきを経て一安心だったのですが、まあ冷静に考えればそんなものなのかもしれません。
もちろん警戒は十分にしなければいけません。でも現時点では「うがい、手洗い」といったインフルエンザと同じ対応策しかない、しかもそれが最も有効ならば、粛々とそれをやるしかありません。警戒することは大事、でもできることが限られている状況で過剰に反応すれば、考えすぎて心配ばっかりが増大していきかねません。
こういうちょっとしたパニックの状態は、魔につけこまれる瞬間でもあります。新型コロナウイルスの不安につけ込む「オンライン詐欺」が発覚、その悪意ある手口とか、「まるでアジア系全員が保菌者扱い」欧州で人種差別相次ぐなんていうのもその一端。
そして、歴史を見ればわかることですが、政治や経済、そこにまつわるパワーゲームは、こういう状況を決して見逃さず利用するものです。例えばアメリカの'60~'70年にベトナム戦争では「アジアが共産化すること」への恐怖が、’00年代のイラク戦争の裏には「大量破壊兵器」への恐怖が、それぞれに煽られて戦争につながっています。もちろん戦争の裏には、支持率を上げたい政権や、軍事産業の利権が有ることは明らかです。'90年代の韓国では、大統領選や支持率低下のたびに起こる「北朝鮮がらみの事件」が、韓国の保守系政権(つまり対北朝鮮強行派)が北に依頼して起こした自作自演だったと言われています。
日本でも今回の新型コロナウイルス流行の不安に乗じて「緊急事態条項を新設すべき」という改憲論を持ち出す政治家が出てきています。緊急事態条項とは「緊急事態に置いて国家権力が人権保護規定を停止できる」というもので、これを利用して独裁政権を作ったのが、あのナチスドイツです。
恐怖や不安に支配された人間は、とにかく「これで安心」と言ってくれる誰か、何かにすがりたい。だから「それに対処している風」なことを言う相手を、冷静な判断ができぬまま受け入れてしまいます。さらに、人々が不安でいっぱいっぱいなのをいいことに、どさくさ紛れにやりたいようにやる人も。政権に近い黒川東京高検検事長 "異例"の定年延長の背景はとか、今の国会の議論がどれだけヒドいかとか。こんなときこそ、冷静に。目の前の恐怖は、私達にとってよりマズい状況を隠すための、目くらましに使われているだけかもしれません。
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