日本のメイクアップアーティストの草分け的存在で、85歳の今も現役で活躍されている小林照子さん。長年の経験や技術を後進に伝える教育にも力を入れており、2019年4月には、未来の女性リーダーになる人材を発掘し少数精鋭で育成する私塾「アマテラス・アカデミア(ATA)」を開講されました。そのATAで伝えようとしていること、そしてこれからの女性の生き方についてお話をおうかがいしました。

85歳の現役美容家・小林照子さんが今「女性の再教育」に力を入れる理由_img0
 

小林 照子
1935年生まれ。美容研究家。現在のコーセーを経て、1991年に「美・ファイン研究所」を設立。モデルや女優、政治家など何万人ものイメージ作りを手がけるほか、[フロムハンド]メイクアップアカデミー、青山ビューティ学院高等部東京校・京都校の学園長も務めている。最新著書『人生は、「手」で変わる。』(朝日新聞出版)、『50歳から始める「きれい!」の習慣』(きずな出版)が好評発売中。2019年4月より新プロジェクト「アマテラス・アカデミア」を指導し、未来の女性リーダーを発掘、育成している。プライベートでは27歳で結婚。娘の小林ひろ美さんは同じく美容家として活躍中。

 


女性の力で世界を明るく照らしたい
 

私塾の名前に掲げる「アマテラス」とは、古事記に登場する天照大神のことで、日本を照らす太陽の女神という存在。いつも元気で周囲を明るく照らすような小林さんのお名前には、天照大神と同じ“照”という字があり、不思議な縁を感じずにはいられません。

「いろんな分野で活躍できる、未来の女性リーダーを育てたいと考えた時に、愛に満ちた力を携えて、人々を導いた女性の偉人は誰だろう? と考えたんです。だけどそういう人ってなかなかいないもので、ジャンヌ・ダルクが思い浮かんだけど、日本人の女性ではありません。そんな時、神話の世界にいた天照大神が思い浮かびました。天岩戸から姿を表す時の光に満ちた姿から、彼女の持つ光や愛が世界を照らし、広めるというイメージが連想され、すごくいいと思ったんです。天照の照という字が私の名前にもあるということもありましたし。それで「アマテラス・アカデミア」という名前にしたものの、非常におこがましいような気持ちもして、普段は「ATA」って呼んでいるんですけどね」(小林さん)

昨年4月に一期生17人でスタートしたATA。1年間で8回の講義を通して、自分の“天命”は何かを考えて深く掘り下げたり、メイクレッスンで自分の魅力の引き出し方や見せ方を学んだり、講師や受講生同士のディスカッションでコミュニケーション能力の向上や女性同士の連携力を高めたりと、実践的なメソッドを身につけていきます。

受講生は、それぞれに専門分野を持つ25歳から39歳までの女性。書類選考や面接を経て選ばれた人たちです。ATAは小林さんが社会貢献の一つとして始めたプロジェクトで、国際社会に通用する女性の進出をサポートすることが目的のため、受講者の費用負担はなし。小林さんは毎年15人の受講生を受け入れ、10年後には150人の次世代のリーダーを輩出したいと考えています。

「私は美容の分野を歩み続け、トータルビューティーやメイクによって、人がどんどん変わっていく姿をたくさん見てきました。私は、美容には医学にも似た力があると感じたのですが、同時に、医学とは全く違う力を持ち合わせていることにも気づきました。医学は人の病気や怪我といったマイナスの部分を見つけて治していきます。逆に美容は、その人のいい部分を引き出して表現することで、その人が抱える心の悩みや迷いをいくらでも改善することができるんです! また、医学にはいろんな診療科がありますが、美容はトータルで人の心や体に寄り添い、いろんな形で関わることができます。

私はそんな素晴らしい美容の力を多くの人に伝えるために、教育機関を作り、人を育ててきました。今では私が直接関わらなくても、後進の人たちが立派にやってくれるようになりました。そこで、世の中にもっと貢献できないかと考えてみた時に、社会や政治の世界でいろいろと提言し、社会を変えていく女性を育てていく必要があると痛感したんです。単に女性の政治家を作ろうということではなく、いろんな分野で経験を重ねた女性たちの連携力こそが変化を生み出すのではないかと。20代から30代の女性を10年間育て続けたら、すごいネットワークと力になるはずです」(小林さん)
 

男性中心社会の中で孤立してしまう女性たち

85歳の現役美容家・小林照子さんが今「女性の再教育」に力を入れる理由_img1
 

女性の場合、仕事をしているかどうか、既婚か未婚か、子どもがいるかいないかなどによって活動範囲が異なることがあり、それらを超えて連携するのはとても難しいことのように思われます。小林さんは、日本が未だに男社会中心のシステムであるがゆえに、連携が難しい現状があると指摘します。

「日本のビジネス社会の中に構築されたシステムは、男の人がやりやすいのが第一で、女の人は必要なところにのみ配置される点のような存在。しかもその点は入れ替わり可能なものでしかありませんでした。そんな社会でも、苦しみながら先駆者として活躍の場を広げてきた女性たちも確かにいます。でも、苦しみながらやってきているだけに、他の人との連携がなかなかできずにいると思うんです。同じ分野だと、どうしても競争になるし、嫉妬の心も出てくるかもしれません。でも、異なる分野の人たちが横のつながりを持てるようになると、お互いが情報共有でき、役立つこともいっぱいあるはず。だから、ATAでは“あらゆる分野から1人ずつ”という基準を設けることにしたんです」(小林さん)

 
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