テレビや映画、そして舞台という様々な場所で縦横無尽に活躍を続ける俳優・佐々木蔵之介さん。実は今回行われたインタビューは、5月13日にPARCO劇場オープニング・シリーズの第二弾として上演されるはずだった『佐渡島他吉の生涯』の主役を、佐々木さんが務める予定だったため、そのプロモーションとして行われたものでした。しかし、新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく「緊急事態宣言」を受けて、インタビュー収録直後に東京・大阪全公演の中止が決定。舞台役者からキャリアをスタートさせた佐々木蔵之介さんだからこそ、エンターテインメントが壊滅的な打撃を受けているこの状況において思うことがたくさんあるはず――。残念ながら舞台の実現は叶いませんでしたが、佐々木さんの舞台にかける思いや俳優としての矜持、そして有事に直面した心境など、インタビュー時に伺ったお話のすべてをここに掲載いたします。

 

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観客の皆さんが安心して楽しめる時期にできるのがベスト


佐々木さんへのインタビューが行われたのは3月27日。小池百合子都知事による週末の外出自粛要請が出る、ほんの数時間前でした。新型コロナの影響で舞台の一時休止や中止が相次いでいた状況だったので、まずはこのような時期に座長を務めることの難しさについて伺いました。

 

佐々木蔵之介さん(以下、佐々木):健康であること、そして人命が一番大切なので、休止や中止という判断はむしろ“そうするべき”だと思っています。観客の皆さんが安心して楽しめる時期にできるのがベストだとは思います。でも、今の時点では上演できることを信じて、自分が与えられていることを精一杯やるだけ。まずは“与えられていること”に感謝をして、それがどうなるかは社会に合わせていかないといけないと思っています。作品に集中できるように、共演者の皆さんを導いていけたら、という感じですね。

佐々木さんといえば、1月から放映されていた連続ドラマ『知らなくていいコト』(日本テレビ系列・現在Huluで見逃し配信中)で演じられていた岩谷編集長が理想の上司像として話題を集めたばかり。

佐々木:取材してくださった色々な媒体の方が、「ぜひうちの編集長に」とヘッドハンティングしてくださいました(笑)。確かにあの編集長は上司としてはパーフェクトな人物像でしたよね。部下に対してはちゃんと包容力があるし、上に対してはきちんと発言できる。社会に対しては洞察力も行動力もある……という、いわば“ファンタジー”のようなキャラクターですが、でもそれは確かにそう思ってもらえたらいいなと思いながら演じていました。

TBS系列でも何シーズンも放映された『ハンチョウ』シリーズも同様で、“上司にしたい俳優”というイメージがとても強い方。

佐々木:そんなことないですよ(笑)。本当に極悪な役を演じることも多く、舞台なら過去に悪名高き『リチャード三世』にも挑戦しました。でも、役者はどの役柄に対してもその役を一番理解してあげたいし、その役を知ってあげたい――、そう思っていると思います。どんな役だったとしても自分がやる役を愛しているんです。もちろん、客観的な見方をすることは忘れませんが。

 

普段の佐々木さんからすれば到底理解できないような人間だったとしても、そのスタンスは変わらないのだとか。

佐々木:どんな悪人だったとしても、彼を愛してあげようと思います。僕は演じるのが仕事なので、役を考えてその人物を自分の身体を通して“生きる”ことになりますし、その生き方にいろんなことを教わります。岩谷編集長というキャラクターからも、色々と教わりましたよ(笑)。今年はNHKの大河ドラマで木下藤吉郎、のちの豊臣秀吉を一年間務めさせていただいています。藤吉郎から太閤秀吉へと上り詰めていく彼の人生を調べていくうちに「人間はこんなことを考えるんだな」とか「こんなふうに変遷していくんだな」と、良くも悪くも、そこには多くの学びがあります。そういうやり方でしか、僕は勉強できてないのかもしれませんね(笑)。

 


PARCO劇場は、大阪から東京へ出てくるきっかけとなった特別な場所


舞台に立つのは、約1年半ぶり。しかも、PARCO劇場は佐々木さんと非常に繋がりが深いのだそうです。

佐々木:関西で劇団をやっていた僕が、東京で芝居をやってみようかというきっかけになったのが、PARCO劇場で上演された『ロマンチック・コメディ』(1998年)です。この舞台で新劇や宝塚出身の方々とご一緒させてもらい、こんな戯曲があるのだということも知り、初めて「舞台って本当に広い世界なんだな」と思ったんです。そこからはPARCO劇場という場所で本当に多くの作品に出会わせてもらい、多くの演出家、共演者、スタッフの方とお仕事をさせていただきました。PARCO劇場に育ててもらい、勉強させてもらったようなものですね。だから今回、この『PARCO劇場オープニング・シリーズ』のひとつに呼んでいただき、一緒にやっていこうといわれたのは、心底嬉しかったです。

 
 
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