「名刺の出し方」も大学で教えるべき?日本で若い即戦力が育たないワケ_img0
 

カリスマ経営者として知られる日本電産の永守重信会長兼CEO(最高経営責任者)の大学教育に関する発言がネットで話題になっています。永守氏は「名刺の出し方も知らないという人が毎年何百人も入ってくる」と現状の大学教育に疑問を呈し、大学改革が必要であると主張しています。

 

ネットではありがちな話ですが、「名刺の出し方も知らない」という部分だけが取り上げられており、「このような主張をする会社に就職する必要はない」「ビジネスマナーなど会社で教えるべき」といった意見が大半のようですが、当然のことながら永守氏が主張したいのは名刺の出し方ではありません。

永守氏は日本電産という巨大企業を一代で作り上げたカリスマ実業家として知られていますが、私財を投じて大学の運営を行っていることはあまり知られていないと思います。永守氏は、2018年に旧京都学園の理事長に就任し、自身の財布から100億円を拠出して大学改革を実施。京都学園大学という名称を京都先端科学大学へと変更し、本格的な人材育成に取り組んでいます。

永守氏は大学教育の現状について「偏差値とブランド主義に固まっており、真の教育がなされていない」と厳しく批判しており、同大学では「即戦力になる人材を育成する」こと目標としています。永守氏は長年の企業経営の経験から、仕事の成果と学歴にはそれほど大きな関連性がないと考えており、大学では実学を強化することが重要という立場を明確にしています(もっとも永守氏自身は現職業能力開発総合大学を主席で卒業しています)。実際、同大学では英会話学校のベルリッツと提携して徹底的な英語教育を行うなど、学生や産業界からは評価する声も上がっています。

永守氏は教育者としての立場から、実践的知識の欠如を批判しており、これまでも「(経済系の学部を出ているのに)決算書さえ作れない」といった発言を行っており、今回も、大学を出ているにもかかわらず「税金のことも何も分からない」人が多すぎると述べています。
つまり「名刺の出し方が分からない」という発言は、大学で名刺の出し方そのものを教えるべきだと言いたいのではなく、今の大学はアカデミズムに偏り過ぎており、実学を軽視しているのではないかという指摘と捉えた方がよいでしょう。

テクノロジーがあまり発達していない時代においては、学術的な研究成果を産業界に応用することはそれほど難しいことはありませんでした。また、学術研究の場で行われる教育も、ビジネスパーソンの育成にそれなりに効果を発揮していました。しかし、技術がさらに進歩し、専門領域の細分化が進んでくると、純粋な学問と産業界で必要とされる一般的な人材育成にはどうしても乖離が出てきます。

 
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