日本人は、モノが誰に帰属しているのかという問題について、契約でどのように定められているのかではなく、直接触れている人に権利があると考える傾向が強いといわれています。その証拠に、家を借りる時に適用される借地借家法の内容は極めて独特です。

日本の借地借家法では、大家さんの都合で借り主を家から退去させることは原則として禁止されています。この法律は終戦後、家をなくした人が多い中で、住宅を確保するという狙いもあったため、借り主の権利が強くなっているという側面がありますが、自分の家に居座った他人を追い出せないという法律は諸外国には存在しません。この法律には、実際にモノを触っている人に所有権があるという感覚が強く反映されているのです。


日本ではこの法律を逆手に取り、家賃を払わずに延々と居座るクレーマーのような借り主もおり、大家さんが損失を抱えるケースも珍しくありません。日本の賃貸住宅における入居審査が異常に厳しいのは、ひとたび貸してしまうと、そう簡単に退去させられないからです(この問題も、本当に家を必要としている人が賃貸住宅から排除されるなど弊害が大きいです)。

 

もし日本人が所有に関する概念が曖昧なのであれば、私たち自身も少し気をつけた方がよいかもしれません。

 

このコラムを読んでいる読者の皆さんには、カゴパクをするような人はいないと思いますが、例えば人から借りた本を返していないというケースはどうでしょうか。相手があげたと思っているのなら問題ありませんが、返して欲しいと考えているなら、それは明らかに人の物を盗んでいることになります。自分にはそんなつもりはなかったといっても、取っている行動は盗人そのものといってよいでしょう。

会社の備品や経費についてはどうでしょうか。会社の備品や経費というのは、会社の所有者(株式会社の場合には株主)のものであって、従業員のものではありません。しかしながら、あたかも自分のモノのようのな感覚で処理している人が多いのではないかと思います。交通費などを少しちょろまかすのも、実は人の財布に直接、手を入れる行為と何も変わりません。

日本では、政治家が自分の利益のために税金を使うことについて「絶対的に許されない」というほどの風潮はありません。実際、そうした問題が発覚しても、「他の部分で優秀なのだからよいではないか」という意見が通ることがほとんどです。これも所有者よりも触っている人に権利があるという感覚と無縁ではないでしょう。

金額が少なければよいと思っている人がいるかもしれませんが、これは額の問題ではなく、誰のモノなのかという所有権の問題です。この違いについて私たちはもっと自覚する必要があるかもしれません。

前回記事「教育格差は「仕方ない」という人が高所得層ほど多いワケ」はこちら>>

 
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