三谷幸喜さん、私を舞台の世界に引き込んでくれたのはなぜですか?【青木さやか対談】
タレントの青木さやかさんが「誰しも45歳で一度オワコンになる」をテーマに、人生を変えてくれた恩人と対談するこの企画。2回目のお相手は、脚本家・演出家の三谷幸喜さん。2012年公演の三谷さんの舞台『桜の園』は、青木さんが女優としての可能性を模索する大きな転機になったと言います。
12月5日から舞台『23階の笑い』を上演中のふたりが、人生の折り返し地点をどう切り抜けてきたか、外野の評価に翻弄されない生き方・考え方とは何かを語ります。売れっ子として、世間の激しい荒波をくぐり抜けてきたふたりだからこそ語られるエピソードの数々は、「40代、このままでいいのだろうか?」と不安を抱える人の背中を押してくれるはずです。
「求めていたものと違う」が
「あいつは終わった」に置き換えられる違和感
三谷幸喜さん(以下、三谷):青木さんが“オワコン”という言葉に敏感になっているのが、ちょっとびっくりしました。
青木さやかさん(以下、青木):最近YouTubeを始めたんですが、自称“バズらせ屋”の男子から「青木さやかってオワコンですよね」って言われまして。その話をミモレの編集さんにしましたら「40代ってある種、誰しもオワコンかも」と。そういうところからこの企画が決まりました。どうやら青木さやかはオワコンという枠組みにいるらしい。だとしたら、まずそれを認めてしまおうかなと。
三谷:青木さんの言うオワコンとは少し違うかもしれないですが、僕なんて20年前から「三谷は終わった」って言われていますからね。
青木:何ですか、それは。
三谷:そりゃ毎回、百点満点は無理ですよ。多少いびつなものが出来上がったり、お客さんの期待に添わないものを世に出したりすると、もうそれだけで「終わった」と言われてしまう。何というか、みんなちょっと厳し過ぎないか。
青木:そんな言われ方をしたとき、どうお感じになりますか?
三谷:次は頑張ろうと思うだけですね。自分の糧にするしかない。それに、常にすべての人類が納得するものを作れるわけがないですから。言いたい人には言わせておく。もし本当に終わっていたとしても「俺はもう終わったんだ」なんて認めたら、本当に終わっちゃうから。
青木:いや、でも終わってるわけないじゃないですか。
三谷:ただね、そう言いつつも、若い時と今を比べたら、もちろん今の方が経験値は積んでいるので、よりいいもの、深いものは作れるようになっているとは思うんだけれども、その一方で、昔みたいに勢いで作るようなものは作れなくなっている。「終わった」「終わってない」じゃなくて、やりたいものが変化しているなというのは感じますよ。
青木:なるほど。三谷さんがおっしゃった「みんなちょっと厳しくなっている」という言葉、そういう空気はなんとなく私も分かります。
三谷:僕の場合、自分が好きな監督の映画を観て、今回の作品は僕の好みに合わないな、と思うことは当然あるわけですよ。ビリー・ワイルダーだってあったし、ウッディ・アレンもニール・サイモンも。でもだからといって、「この人は終わった」なんて感情を微塵も抱いたことがない。なぜそんなふうにパッと見限ることができるのか不思議なんですよ。自分の感性に合わなかっただけかもしれないし、ひょっとしたら自分の感性そのものに問題が起きている可能性だってある。「今回は確かに面白くなかったけど、次に期待しよう」ってどうして思えないのかな。ものすごく厳しい人たちなんだなぁとは思いますね。それって甘え? こんなことを言うと、クリエイターとして失格とかまた言われかねないけど。
「あなたができることを僕はお願いした。
だから悩まなくていい」
青木:少し話が逸れてしまいますが、私は三谷さんの『桜の園』が初舞台で。
三谷:緊張していましたよね。
青木:はい、すごく(笑)。どうしても自信が持てなくて「もうできないかもしれない……」と思っていたら、三谷さんは、「青木さん大丈夫ですよ。僕があなたを選んだのだから必ずできます。安心してください」って言ってくださって。
三谷:はい。
青木:もう、凄く救われました。
三谷:なぜなら“初舞台を踏む青木さやか”をキャスティングしたのは僕だから。“初舞台を踏む青木さやか”が一番面白く見えるようにホンを直し、演出をつけた。もちろん青木さんだけじゃなく、ほかの俳優さんも同じです。できるできないじゃない、僕はいつも「あなたにできること」をお願いしていますから。だから大丈夫なんです。
青木:自信がない時、絶対的な味方がいると感じられるということが、それはそれは大きな力になりました。
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