新作が公開されるたびに世界的な注目を集める西川美和監督。その5年ぶりの新作映画『すばらしき世界』では、17歳の時に見たドラマで心を掴まれて以来「いつかご一緒させていただきたかった」と語る、名優・役所広司を主演に迎え話題を呼んでいます。今回はそのお二人の対談をお届け。名優と名監督の出会いは、映画が描く人と人の心の触れ合いとは、この時代に必要な世界の「すばらしさ」とは、一体どんなものでしょうか。
ヒットを狙う商品ではなく、作品を残そうとしている監督
役所広司さん(以下、役所さん):2006年に『バベル』でカンヌ国際映画祭に参加したとき、西川監督は『ゆれる』を監督週間に出品されていたんです。たまたまホテルのロビーにあった映画祭の雑誌で監督が若い女性だと知りました。カンヌではお会いできなかったのですが、帰国して『ゆれる』を見て、すごくいい作品だなと思いました。人間と人間の関係をすごく丁寧に描かれていて、物語の中に素直に入っていける作品だなと。これだけオリジナル作品にこだわって、自分のやりたいものをやっている監督は日本映画の中で貴重な存在です。
西川美和監督(以下、西川監督):私は映画監督になる!という強い意思で映画業界に入ったわけではないので、自分が監督であることにどこか自信がないんです。だからせめて、作品については自分が一番知っているという状況を作りたくて、オリジナルにこだわっていると言うか、それしかできないというか。
役所さん:『夢売るふたり』と『永い言い訳』に感想のコメントを書かせてもらった時、西川監督から頂いたお礼の手紙で、大昔のテレビドラマ「実録犯罪史シリーズ 恐怖のニ十四時間 連続殺人鬼 西ロ彰の最期」を見て下さっていたと。そこから今回の話につながったと思うと、本当にあみだくじに当たったような幸運と縁を感じます。
西川監督:はい、17歳の時に。
役所さん:『すばらしき世界』のお話が来たときは、「お!来た、来た、来た、来たっ!よっしゃー!」と思いました。企画も魅力的でしたね。ベストセラーが原作やテレビドラマのリメイクが多い今の時代に、原作(『身分帳』佐木隆三)はずいぶん昔の渋い小説だし。
西川監督:紙の本は絶版になっていたんですが、読んでみて「こんなものよく書こうと思ったなー」と思いました。大きな犯罪が起こるまでの話ではなく、それが全部終わった後の、単に当たり前の生活を取り戻すまでの地味な話で、犯罪小説のジャンルとも言えないし。でも受刑者の出所後の再犯率の高さはずっと言われてきたことだし、「誰も描こうとしていないなら、今こそやるべきだな」と。
役所さん:普通なら成立しにくい企画だから、今の観客には新鮮な作品になると思いました。日本映画からこのテイストの作品がなくなるのは勿体ないと思います。西川監督は、ただヒットを狙う商品ではなく、作品を残そうとしている監督だと思います。
西川監督:そんなことを言っていただけるなんて、身に余る光栄です。
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