いつまでも元気で長生きしたいし、親にもなるべく長生きしてほしい。そう願うことが“当たり前”であり“幸せ”だと考えていた筆者にとって、「はたして本当にそうなのか?」と考えさせられたのが、松原惇子さんの著書『ひとりで老いるということ』です。
世界的にも「人生100年時代」という言葉が浸透しつつある昨今。おひとりさまの終活応援を行う団体を運営してきた松原さんは、超高齢化社会・日本で「100歳まで生きる」こととはどういうことか、リアルな実情について教えてくれます。今を生きる高齢者たち、そして現在70代の松原さんご自身の本音が詰まった本書から、特別に一部抜粋してご紹介します。
100歳まで生きるということ
ついこの間までは、人生80年時代と言われ、そのつもりで生きてきたのに、最近、やたらと「人生100年時代」と言われるようになり、気分が悪い。
「人生100年時代」とは、世界的ベストセラー本『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』(東洋経済新報社)の著者で、ロンドン・ビジネス・スクールの教授、リンダ・グラットンが提言した言葉だ。彼女は、平均寿命がこのまま延びて100歳を超えるようになれば、これまでのライフステージ「教育」「仕事をする」「余生を送る」を大きく見直す必要があるという。
この「人生100年時代」という言葉を知ったとき、30代後半だった筆者は、あと約60年も猶予があるのか!などと、どこか楽観的に捉えていました。しかし、それも仕事があり、自分も親も健康であればこその話。コロナ禍で40歳を超えた今、仕事はもちろん、なかなか会いに行けない、地方の過疎地域に暮らす高齢の両親が要介護になったらどうするか? など、将来への不安は拭えません。
松原惇子さんが主宰する、おひとりさまの終活を応援するNPO法人「SSSネットワーク」の会員の中には、人生100年時代を象徴する体験をする人も出てきているそうです。
村田さん(仮名)は、現在84歳になったシングル女性。経理の仕事で成功し、現在は悠々自適の生活を送っています。しかし、松原さんが村田さんの自宅のマンションを訪ねたとき、そこには優雅なひとり暮らしとはかけ離れた、驚きの光景があったといいます。
わたしが目にしたものは、リビングルームの左端に置かれたテーブルセットと、右側の壁にあった病院でよく見るベッドだった。わたしは、見慣れない光景に一瞬ひるんだ。
ベッドには明らかに死が近づいている村田さんの母親が寝ていた。村田さんにはお兄さんがいるが、弱くなった母親を引き取ることに嫁が反対したそうだ。家庭を持つと息子は嫁のものになりがちだ。村田さんのお兄さんも同じだった。子供がいる。時間がない。お金がない。部屋がない。の“ないないづくし”で同居を断ってきたのだ。
そこで、白羽の矢がたったのが、独身で当時70代の妹だ。これはよくあるケースだ。
独身女性が多くを占める「SSSネットワーク」を20年以上運営してきた松原さんは、母親を看取る多くのシングル女性を見てきました。経済的な余裕があれば親を介護施設に入れることができるものの、大抵の場合、在宅で高齢の親の世話をすることのほうが多いといいます。
「人生80年時代なら、介護する年数も少ないが、人生100年時代となると、想像しただけで頭がくらくらしてくる」と語る松原さん。
自分が若くて元気なうちは、親の介護についても前向きに考えることができるかもしれません。しかし、自分が70代であればどうでしょうか。そこにどんな日常が待ち受けているのか、人生100年時代の介護を想像するのは、たやすいことではありません。
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