『ハウス・オブ・カード 野望の階段』の
女主人公はメーガン妃そのもの

 

先にも申しましたが、このドラマは、アメリカ大統領を目指す野心家夫婦、フランクとクレアのなりふり構わない戦いぶりを描いたもの。序盤は、フランクが大統領になるまでのドロドロサクセスストーリーという感じなのですが、中盤から急に、物語の主軸が変わってきます。主人公・フランクから、妻であるクレアの心情描写へと。そして実はこのクレアの心情こそが、メーガン妃の心情そのものなのではないかと、ある頃からか強く思うようになったのです。

ではそのクレアの心情というのは一体どのようなものかと言いますと……。当初クレアは、フランクの成功は自分の成功であると考えていて、積極的に、疑問なく、フランクをサポートしていました。フランクが国務長官指名の約束を反故にされたときは、「私に謝っていないで、別の方法で表現して」と発破をかけていたように、夫と共に野望の階段を上っていくことに前向きだった。ところが、様々な権謀術数の末にフランクが大統領となり、自身もファーストレディという最高の座を手にすると、急に様子がおかしくなるのです。いつもモヤモヤとして、不満げに。フランクも戸惑い、「ホワイトハウスにも不満、ファーストレディになっても不満。一体どうしたらいいのか教えてくれ」とブチ切れるほど。

こう説明いたしますと、たしかにフランクがキレるのも当たり前だと感じるかもしれません。フランクの妻として、これより上の地位はもうありません。夫として彼は、やるべきことをフルにやり遂げてみせたのですから。しかし、そういうことではないのです。どんなに登り詰めても、クレアにとってそれは“フランクの妻”としての人生でしかありません。そうです、ここで“自分の人生”の登場なのです。クレアは、これまで生きてきたのはフランクの人生で、“自分の人生”ではなかったことにようやく気づいたわけなのです。

そしてここからが面白い。気がついたクレアは早速行動を起こします。自分の人生を生きるため、自身が政治家になろうと決意。何と、ファーストレディでありながら下院議員へ立候補しようと考えるのです。しかし大統領の妻が立候補なんて、当然フランクとしては歓迎できません。クレアには、自分のために働いてもらわなければなりませんから。そこでフランクは大統領の権力を駆使し、クレアの立候補を潰してしまいます。

しかし時すでに遅しで、一度目覚めてしまったクレアの「自分の人生を生きたい」という思いは、もう翻せません。それだけでなく、今や彼女も自分の人生を生きるために必死ですから、死に物狂いで反撃してきます。これがまた凄くて、フランクの父親がKKK(=白人至上主義団体)と一緒に写っている写真をばらまいたり、フランクが南軍(=昨今は黒人差別の象徴として受け止められている)支持者であるかのような写真をネットに流したり。どれも、フランクにとって致命的なものばかりです。折しもフランクは次期大統領選の真っただ中にいますから、効果は抜群でした。最終的にクレアはフランクに完勝した形で、何とフランクに、自身を副大統領候補として擁立させてしまうのです。

……さてこのクレアの行動、どう思われましたでしょうか? クレアが自分の人生を生きるために、フランクにしたことを。正直、「そこまでするか?」と思われたのではないかと思います。たしかにいくら自分の人生を生きたいからといって、ファーストレディの仕事を放っぽり出して自分の立候補のために走り回るとか、夫に邪魔されたからといって夫が落選するほどの反撃をおこなうとか、「ドラマだよね」としか受け止められないレベルでしょう。でも私は見進めていくうちにこう思うようになったのです。実はメーガン妃はこれをリアルでやっているんじゃないか?と。

メーガン妃もクレア同様、ただメーガン・マークル(メーガン妃の旧姓)という自分の人生を生きようとしているだけなのかもしれません。英国王室に嫁いだ女性の人生でもなければ、王子の妻という人生でもなく。その“自分の人生を生きる”ということの一端が、アメリカに住むことであったり、英国王室の公務より自分のやりたいことをやる、ということだったのかもしれない。クレアが、ファーストレディの仕事を放り出して政治家に立候補しようとしたように。そして行く手を阻まれたことで、やはりクレア同様、死に物狂いの反撃をしているのかもしれない。自分の人生を守るために……。そう重ねて見てみると、すべての行動がクレアの行動とぴったり合致するのです。

もちろんその是非は分かりません。ただこのクレアのキャラクターは、アメリカでは非常に人気がありました。主役のフランクがセクハラ疑惑で途中降板したこともありますが、最終シーズンは、とうとうクレアが主人公となって作られてしまったほど。この事実が、日本ではあり得ないことと思われるメーガン妃の行動も、アメリカではちっともあり得なくないのだということを物語っていると思うのです。そして“クレア=メーガン妃”と考えると、なぜ彼女が、日本人にとっては完全なる自己中にしか思えない主張をあれほどまでに真顔で展開できるのか、少し腑に落ちる気もしたのです。

もしご興味があれば、是非この『ハウス・オブ・カード 野望の階段』を見ていただきたいと思います。ひょっとするとメーガン妃は、本当にクレアと同じく、政治家として立つことを目論んでいるのかも……、私は見ているうちに、そんなことすら考えてしましました。でももしそうだとしても、それをどうこう言うつもりはありません。ただ彼女は、良くも悪くもそういう“自分の人生”を生きようとしているだけだと思いますから。
 


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