結果として、Aさんの腰痛に有効な治療は、Aさんの手術ではなく、調理台の「手術」でした。調理台の高さを調整することで、Aさんの腰痛は幸い背骨の手術をすることなくよくなっていきました。

長年の腰痛が、手術ではなく「家のリフォーム」で治った話_img0
 

このように体への負担は、環境が決めていることも数多くあります。

 


65歳以上の10人に1人が寝たきりになっている


Aさんの例は極端かもしれませんが、私たちの日常生活における「習慣」というのは知らず知らずのうちに積み重なって体に負担をかけていることがあります。1日単位で見れば、その負担は軽く、気がつかないかもしれません。日々お酒を飲んでいても「体調はむしろ良いぐらいだよ」と思われるかもしれません。

しかし、ちりも積もれば山となる、です。日々の積み重ねによって、気がついたら取り返しのつかない事態になっているということも稀ではありません。

歳をとると、Aさんのように体に痛みが出たり、体の一部が思うように動かなくなったりするようになる可能性が高まります。実際に、65歳以上の10人に1人は車椅子か寝たきりと言われています。また、そのような不自由から、転倒のリスクも高くなります。

一度転んだ人というのはまた転びやすく、歩くことへの不安を抱えるようになる傾向が知られています(参考文献1)。その不安から、歩く頻度が減り、それがさらなる筋力低下を招き、ますます転びやすくなり転倒するという悪循環に入ってしまいます。

そうなる前に未然に防ぐことが大切です。「5つのM」 における“Mobility”の視点では、このような体の老化を見直し、予防する方法を考えていきます。


健康な老後を叶えるのは、日々の習慣の見直し


そのためには、頭からつま先まで、視力やバランス感覚、筋力や足の健康まで幅広く自分の体を見直す必要があります。また、Aさんがそうであったように、体だけではなく、自宅環境にも見直しが必要な場合があります。

体の衰えは、日々の習慣と密接に関係しています。逆にいえば、体のメンテナンスのコツも、日々の習慣にこそヒントが隠されているものです。そしてそれが健康な老後を過ごす上でも大切になってきます。そのようなヒントを一緒に探していきましょう。

参考文献
1 Austin N, Devine A, Dick I, Prince R, Bruce D. Fear of falling in older women: A longitudinal study of incidence, persistence, and predictors. J Am Geriatr Soc 2007; 55: 1598–603.

写真/shutterstock

前回記事「平均寿命は長いのに…「健康寿命」が残念すぎる日本人が知らない「5つのM」」はこちら>>

 
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