「ハナミズキ」などの大ヒット曲を持つアーティストの一青窈(ひととよう)さん。三人の子どもを育てる一青窈さんは、新型コロナワクチンのワクチン接種に不安を抱えていたといいます。一青窈さんは、医師の山田悠史さん(老年医学・緩和医療科医)や、稲葉可奈子さん(産婦人科医)らと何度か話すことによって、ワクチンへの不安を解消できたそう。一青窈さんの不安はどのように解消されたのでしょうか。三人のお話をミモレで再現してもらいました。
「変異株」ってなんですか
一青窈(以下、一青) いま、巷で「変異株」、「二重変異株」といったものが騒がれていますが、どういうものか、教えていただけませんか。ワクチンが効くとか効かないとか、いろいろと言われていますよね。
山田悠史(以下、山田) 「二重変異株」というのは、懸念される変異を1つだけでなく、2つもったウイルスの話をされているのでしょうね。ウイルスのトゲトゲの部分に懸念されるような変化が出ているケースがすでにいくつか知られています。
稲葉可奈子(以下、稲葉) 懸念しなければならないような変異が二ヵ所あるということですよね。「二重」というと、キャッチーなので、そういう呼ばれ方をしていますが、変異株というくくりでは二重だろうが三重だろうが同じこと。既存のものと、感染伝播のしやすさやかかったときの症状の重さが違うということはあるにせよ、変異株であるという意味では違いはありません。もっと言えば、変異株であろうとなかろうと、私たちの行う感染予防策に変わりはありません。本当に感染予防をしっかりされている方には、変異株だからといって恐れることはなく、今まで同様に生活していただければいいと思います。
山田 ウイルスの変異と、ワクチンの効き方について簡単に説明したいと思います。そもそもウイルスは、ワクチンから逃げるという意思をもって、変異しているわけではありません。
ウイルスが増えていく中で、自分の遺伝情報のコピーを間違えちゃうことがあるのですね。正確にコピーできなかった結果、変異したウイルスが一定の確率で生まれてしまうことがあるのです。人間の遺伝情報でもこういうことはあります。子孫を残していく中で、たまにホクロができたりもしますし、がんみたいな病気ができてしまったりしますよね。ウイルスにも、そのようなことが起こり、少しずつかたちを変えていくのです。
ワクチンの製造では、ウイルスの表面にあるトゲトゲに対して身体に免疫ができるように、ワクチンをつくっていきます。しかし時間とともに、このトゲトゲの構造に違いのあるウイルスが生まれているのです。このトゲトゲのかたちが全然違うものになってしまうと、ワクチンを打っても免疫が働かなくなることがあります。変異をもったウイルスを認識できなくなる状態というのがこれです。こうなると、ワクチンを打ったのに効かないということになります。
変化することでウイルスは生き延びていく
これから多くの人がワクチンを打っていくと、オリジナルのウイルスには免疫ができていきますので、感染しにくくなっていきますね。すると、オリジナルのウイルスは人の体の中で増殖しにくくなっていきます。
かたちの違うウイルスは、こうした人の体の中でも増殖できるようになりますから、生き残っていく確率が上がります。どんどん変異を重ねると、ウイルスとして生き残る可能性が上がっていきます。こうしてウイルスはかたちを変えて生き残っていくのです。
ですから、長い目でみれば必ず、今のワクチンから回避できるウイルスというのは誕生します。現在のワクチンだけでは対応できなくなるというのはほとんど間違いのないことです。
ただ、現状で知られている変異ウイルスで、今のワクチンがまったく効かないということは確認されていません。でも、必ずどこかでは、今のワクチンが効かないタイミングはくるでしょう。
一青 新しいウイルスに対する、新しいワクチンというのは、同時並行的に作られているのですか?
山田 新しい変異が見つかり、新しいワクチンが必要となれば、そうしたワクチンをつくるでしょう。南アフリカからきたウイルスに対して、現在のワクチンが効きにくいとすると、南アフリカのワクチンの設計図を持ってきて、それをもとにワクチンをつくればいいのです。ワクチンの作り方はもうわかっていますので、新しいウイルスの設計図をもってくればいいのです。そういう準備は進んでいて、実際に南アフリカに対するワクチンというのはもう作られていますね。
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