母との仲直りは、自分の生きづらさとの仲直り
変化に伴う痛みに苦しみながらも、最も難しいと思っていた母親と和解を果たした青木さん。他人との関係性に自信を持つことができず、自己肯定感の低さに苛まれていた心にも変化が生まれ始めていました。
「自分の嫌なところや、直視すると苦しくなることからも逃げずに解決していきたいですし、これまで迷惑をかけてしまった人や喧嘩をしてきた人とも、反省して仲直りしたい。これからは、誰との関係も諦めたくないんです。そして母と仲直りできたのだから、きっと私はこの生きづらさとも仲直りできるはず。今は自分に、そんな期待を抱いています」
自然に身を任せるだけでは何も解決しなかった。そのままの自分なんて到底愛せなかった。「今の自分はどうしても好きになれない。だから直すんです。私は常に私を直していきたい」と青木さん。過去に浸るための反省ではなく、未来のために行う反省は、とにかくスピード感が大事だと教えてくれます。
「反省をする。その代わり反省にかける時間は一瞬にする。一度反省したことはなるべくすぐに解決して次に持ち越さない。そう決めています。今日も明日も明後日も1年経っても、同じことを延々と話しているのはつらいなって。立ち止まった分だけ前に進むのも遅くなりますから。とにかく今は、前へ前へ進んでいきたいです」
目に見えない足枷を外し、「わたし」と仲直りできた“その後の人生”を軽やかに歩み始めた青木さやかさんは、プライベートでの抱負についてこんなことを話してくれました。
「これからチャレンジしたいのは、誰かと新たにパートナーシップを築くこと。これまで自分の問題から逃げたり、目を背け続けてきたことで、誰かと深い関係になっても何度も同じように関係性が崩壊していきました。相手の愛情を“まだまだ足りない、もっとちょうだい!”と要求してしまう人間だったうえに、“もっと”を受け取っても満足しなかったから。でも、きっと今なら違う対処ができるんじゃないかなって。
これも福島富士子教授から聞いたのですが、岡本太郎さんのパートナーだった岡本敏子さんの著書の中に、愛する人を“子宮に入れてあたためてあげたい”というような言葉があるよと。ああ、そういう気持ちになれたらいいなと妙に納得したんですね。母と和解し、娘と楽しく暮らし、自分ともなんとか仲直りできた今、解決できていないことの一つは、ひとりの男性と不安のない愛を育むこと。生涯かけてチャレンジする機会があればこんな嬉しいことはないなと思います」
『母』著者:青木さやか 中央公論新社 1540円(税込)
長年にわたる母との確執。いびつな感情を抱えたまま「わたし」は母から逃げるように上京し、毎日タバコの煙を全身にまとってパチンコに通う。そして結婚に出産、離婚に「がん」までーー。母のせいで自分のことを嫌いになった「わたし」は、それでも最期に母と向き合うことで「わたし」との関係を修復していく。青木さやかさんが自身の傷と向き合い、生きることの意味を見つけていく、心に迫る人生譚。
インタビュー後編は6月12日公開予定です。
取材・文/金澤英恵
構成/山崎 恵
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