前回、認知症の予防の重要性についてお話しました。ここでは具体的に可能性のある認知症の予防法について、今分かっていることをおさらいしていきましょう。

多くの方が感覚的に「運動は認知症予防につながるのでは?」と思われるかもしれませんが、実際にはどうなのでしょう。

運動については、多くの観察研究によって、運動と認知症リスクとの間に逆の相関がありそうだということが分かっています(参考文献1)。すなわち、運動量が多ければ多いほど、認知症リスクが低いという関係がありそうだということです。この「相関」というところは、注意が必要なところです。

観察研究だけでは因果関係の証明が難しい


この点を理解するにあたり、まず「観察研究」という研究の特徴を簡単に理解しておきましょう。

「観察研究」というのは、研究の対象者になる人から得られるデータをありのままに観察するというタイプの研究です。ここでは例えば、運動をしていた人たちと運動をしていなかった人たちで比べて、どちらで認知症になる人が多いかというのを比べます。

被験者に運動をしてもらったりするのではなく、ただ運動をしていた人としていなかった人で分類して評価をするのです。そうして、運動をしていなかった人のほうが認知症になる人が多ければ、運動と認知症は関係があると考えられます。

 

ただ、ここで注意が必要になる点がいくつかあります。まず、先の研究で、一見運動の結果として認知症が減ったように感じられたかもしれませんが、実際には逆かもしれません。認知症になる人はそもそも病気がちのため、運動ができない傾向にある、だから運動をしていなかったという逆の因果関係が成立するかもしれません。

 

あるいは、認知症にならなかったのは、運動の効果のように見えて、実は運動をしていなかった人たちに飲酒や喫煙が多く、運動ではなく、飲酒や喫煙の多さが認知症の原因になっていたのかもしれません。

このように、観察研究では、因果関係の証明が難しかったり、運動と認知症の間にはさまる第三の因子(これを交絡因子と呼んでいます)がある可能性があったりと、限界があることがわかります。観察研究だけでは因果関係の証明は難しく、因果関係の証明をするためには別途「介入研究」と呼ばれる種類の研究が必要になります。

 
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