運動の効果があるとは言い切れないが……


しかし少なくとも、運動と認知症の間に何らかの関連性はありそうだ、というところまではわかります。これが先に述べた「相関」の意味です。

これらに基づいて、今わかっていることをまとめると、「運動をしている人の方が認知症は少なそうだけれど、運動をしたからといって認知症が予防できるかはよく分かっていない」ということになります。

 

また、高齢になってからの運動よりも、もう少し若い中年の時期の運動の方が、認知症リスクの低減につながる可能性が高いのではないかと考える専門家もいます。しかし、35~55歳の健康な成人を対象に運動レベルの追跡調査を開始した研究では、30年近くの追跡調査でも運動の保護効果は認められていません(参考文献2)。このように、運動の効果は必ずしも証明されていないのです。

 

一方で、運動がさまざまな病気を防ぐ可能性が高いため、種々の病気を予防する一連の中で、認知症に対しても効果を発揮する可能性があるのではないかという楽観論もあります。

運動の効果は決して認知症の話にとどまらず、心肺機能の向上などにもつながるものですし、「科学的に証明されていない」というのは「まだ分からない」というだけであって、効果がないとは言えません。「関連はあるかもしれない」というデータもある中、運動をする価値が消えるわけではないと思います。


前回記事「認知症の発症率を低減するために。「予防」は「治療」に勝る重要なステップ」はこちら>>


参考文献
1 Defina LF, Willis BL, Radford NB, et al. The association between midlife cardiorespiratory fitness levels and later-life dementia: a cohort study. Ann Intern Med 2013; 158: 162–8.
2
 Sabia S, Dugravot A, Dartigues J-F, et al. Physical activity, cognitive decline, and risk of dementia: 28 year follow-up of Whitehall II cohort study. BMJ 2017; 357: j2709.

構成/中川明紀
写真/shutterstock

 
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