露見
「一条、今日の15時のミーティングなんだけど、広告の修正稿上がってくるのが遅れて、17時スタートになりそうだ」
「あ……すみません、実は今日、18時からちょっと、用事があって……」
翌朝、彰人の部屋から出社すると、開口一番上司の高木に声をかけられた。
今日は病院に今後の治療方針について相談に行くことになっている。こちらから頼んでおいて、キャンセルする訳にはいかなかった。
「そうか、じゃあ仕方ないな~。俺一人でもなんとかなるか」
「一条さん珍しい、デートですか? 大丈夫っすよ高木さん、僕も出ますから」
「いや~篠原がいてもなあ」
後輩が口をはさんでくれたおかげで、追及を免れた。瑤子はほっと胸をなでおろす。
二児の父でもある高木は、瑤子のひとつ上の44歳だが、しゅっとしていて年齢を感じさせない。社内外でプロジェクトマネージャーとして絶大な信用を築いていた。
敏腕営業マンとして社長賞を獲ったこともある彼は、上司であると同時に、既卒枠で瑤子と同時期入社だ。
公私ともにブルドーザーのように片っ端から成果を出していく彼に、「用事」で会議を欠席すると告げるのは、なけなしのプライドがうずいた。
職場では数少ない女性営業としての矜持として、これだから女は、と言われそうな行動を、瑤子はことさら避けてきたのだ。
ネットで調べると、瑤子くらいの初期ステージならば、数日の入院で事足りるケースが多いようだ。
これならば同僚には言わずに、有給休暇だけとって処理することも可能かもしれない。
会議に出られないことを申し訳なく思いながら、せめてもと資料を一生懸命作っていると、スマホにメッセージが入った。
「瑤子さん、おはよう。iPadとケース、うちに忘れていったでしょ。日中は大丈夫?」
彰人からだった。今朝はまだ寝ている彰人を起こさないようにそっと身支度して出てきたので、どうやらソファにタブレットを忘れてきてしまったようだ。
「ごめんね、大した資料入ってないから大丈夫。次回まで預かっておいてくれる?」
すると、間髪入れずにまたメッセージがはいる。彰人にしては珍しいことだった。
「さっき十番に用事があって、ついでに瑤子さんのマンションに寄ってiPadポストに入れようと四苦八苦してたら、英梨花ちゃんが学校いくとこで、声かけられた。
一緒に住んでるの?
それから……開きっぱなしのタブ、病院情報ばっかりだった。
今日、遅くてもいいから、話せるかな」
――しまった……。iPadは彰人にパスコード教えて共有感覚だったのに。
おまけに……何もかもいっぺんにバレすぎじゃない!?
瑤子はショックのあまりめまいがして、思わずデスクに突っ伏したのだった。
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