副作用が原因で不要な薬の服用が増えることも……
さらに、こんな状況が起こることもあります。
Dさんは、高血圧と診断され、血圧の薬であるアムロジピンという薬の処方が開始されました。アムロジピンには足のむくみの副作用が出ることがあり、Dさんにも開始後2カ月ほどで足に強いむくみが出て、不快に感じるようになったため別の病院を受診しました。
そこで、足のむくみをとるために、フロセミドと呼ばれる利尿剤が開始されます。フロセミドには、カリウムを減少させる副作用があることが知られています。
Dさんはフロセミド開始後、足がつりやすくなり、再度病院を訪れると、今度はカリウムが低いことが判明して、カリウムのサプリメントも開始されました。また、足がつって痛くなるという症状に対し、アセトアミノフェンと呼ばれる痛み止めも開始になりました。
ここまでで、すでにDさんには4種類の薬が開始されたことになりますが、本当にこれらの薬は必要だったのでしょうか。
よく考えてみれば、Dさんの症状の元凶はアムロジピンの副作用でした。このため、足のむくみが強く出た時点で、アムロジピンを減らす、あるいは他の薬に変更することで、足のむくみがよくなった可能性が高く、それ以外のあらゆる薬は不要だった可能性が高いと考えられます。
しかし現実には、副作用を引き金に、3種類の不必要な薬が始まってしまったことになります。
こういった状況を「処方カスケード」と呼んでいます。処方薬が原因の症状を治療するために新たな薬が追加される、という状況です。全て同じ医師が診療していれば、このようなことは防ぎやすくなりますが、別々の医師がそれぞれの症状の診療にあたるということも稀ではなく、その場合、こういった処方カスケードが起こりやすくなります。
処方カスケードは、処方薬の追加にとどまらず、副作用で出た症状で不必要な検査が行われてしまったり、入院が必要になってしまったりという状況も含みます。
アメリカのある医療機関では、全ての入院のうち1.4%が薬の副作用を原因とするもので、そのうち28%が「防げるものだった」と報告されています(参考文献1)。
裏を返せば、72%は防ぎきれない副作用だったとも言えますが、それでもなお、約3割に防げるもの、すなわちここで紹介した処方カスケードのような、必要のない処方だったと言えます。
このように、薬は増えていきやすく、不要な処方が生じるリスクはあらゆる場面に潜んでいます。そして、不要な処方による副作用で健康を害することもあります。健康を助けるためであったはずの処方薬が、こうして健康を害することにつながってしまうのです。
前回記事「薬の飲み過ぎを防ぐために、医師と密なコミュニケーションをとろう!」はこちら>>
参考文献
1 Jha AK, Kuperman GJ, Rittenberg E, Teich JM, Bates DW. Identifying hospital admissions due to adverse drug events using a computer-based monitor. Pharmacoepidemiol Drug Saf 2001; 10: 113–9.
写真/shutterstock
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