医師と患者が思う「良い死」にはずれがある


また、このような研究もあります(参考文献2)

もしかすると日本の医療現場ではタブー視される傾向すらあるかもしれませんが、この研究では「どのような死が“よい死”ですか?」という質問を医療者、患者、最近患者を亡くした家族に尋ねて分析をしています。

すると、患者や家族の返答からは、「よい死」を構成する6つの要素が浮かび上がる結果となりました。

「よい死」を構成する6つの要素・痛みやその他の症状での苦しみがないこと
・明確な治療方針が決まっていること
・死の直前や死後への準備ができていること
・大切な人と過ごし、人生の振り返りを完了できること
・他者に最期まで貢献できること
・「患者」ではなく全人的な肯定感を持てること

一方、医師からの返答では、痛みや症状の緩和という点が重視され、スピリチュアルな要素については挙げられなかったということです。

こういった死への考え方は、文化的背景によって大きく異なる可能性があり、日本人で分析するとまた違ったものが見えてくるかもしれません。しかしいずれにせよ、患者や家族が大切にしたいことと、医師が大切と思っていることには、このように乖離が起こってしまう可能性があります。

別のある研究(参考文献3)では、主に患者さんを亡くした家族に対して、終末期ケアがどのようなものだったかを尋ね、それを分析しています。

 

その結果、病院で最期を迎えた場合、痛みや呼吸困難といった症状の緩和については約5人に1人が不十分だったと答えるにとどまったのに対して、精神的なサポートについては、約2人に1人が不十分だったと返答しています。

 

一方で、現在の日本では取ることの難しい選択肢ですが、自宅で緩和ケアを受ける「ホームホスピス」のケアを選択した場合には、精神的なサポートが不十分だったと答えた人は約3割にまで減少していました。

その違いの可能性がある原因として、ホームホスピスではコミュニケーションを希望した時にとれていた人が86%に上りましたが、病院では約50%にとどまっていました。

医療者側からいえば、医師だけではなく、看護師、ソーシャルワーカー、臨床心理士といった様々な職種が終末期ケアに関与して、多角的なアプローチができるようにすること、一方で患者や家族からは、医療チーム任せにするのではなく、しっかりと自分たちが大切にしていることを伝え、コミュニケーションをとる重要性を物語っています。

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参考文献
1 Silveira MJ, Kim SYH, Langa KM. Advance directives and outcomes of surrogate decision making before death. N Engl J Med 2010; 362: 1211–8.
2 Steinhauser KE, Clipp EC, McNeilly M, Christakis NA, McIntyre LM, Tulsky JA. In search of a good death: observations of patients, families, and providers. Ann Intern Med 2000; 132: 825–32.
3 Teno JM, Clarridge BR, Casey V, et al. Family perspectives on end-of-life care at the last place of care. JAMA 2004; 291: 88–93.

構成/中川明紀
写真/shutterstock

 
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