「赤の女王仮説」をご存じでしょうか。

「生き残るためには変化し続けなければならない」という生物学上の仮説です。ルイス・キャロルの小説『鏡の国のアリス』に登場する赤の女王による「走り続けないとその場にい続けることもできない」という台詞にちなんで名づけられました。

ITテクノロジーの進化、新型コロナウィルスの蔓延などによる社会の変化を目の当たりにしていると、「変化できること」が現代人の基礎能力であることは間違いないと思えてきます。社会や環境の変化以外にも、私たちの人生には、急な異動辞令や家族の転職などさまざまな変化の芽がひそんでいます。

今日ご紹介するのは、キャリアにおける不意打ちの変化にでくわしたときに、どう対処すればいいかを教えてくれる一冊です。

「望まぬ転機をチャンスに変える」自分の現状維持バイアスを外すには?_img0
『幸せってなんだっけ?』(ヘレン・ラッセル著・鳴海深雪訳/CCCメディアハウス)

本書は2017年に日本で発表され、ヒュッゲ(注)・ブームの火付け役となりました。

※注:「心地よい時間を過ごす」という意味のデンマーク語・ノルウェー語。

著者のヘレン・ラッセルさんは、人気ファッション誌『マリ・クレール』の元編集者。ロンドンでバリキャリ人生まっしぐらだったのに、夫の急な転職により北欧デンマークに移住することになります。根っからのジャーナリストである彼女は、どう変化に立ち向かい、新鮮な価値観を世界に紹介するに至ったのか? 彼女の奮闘の中に、今の私たちにとって参考になるアイディアが隠れています。

 


マイクを持ったレポーター気分で、未知の世界に飛び込もう


刺激的なロンドンで、やりがいのある仕事にまい進する日々。夢は、リタイア後に田舎でのんびり暮らすこと。これぞ「普通の幸せ」だと信じていたヘレンですが、ある日突然、夫から衝撃の提案が。

「レゴで働きたい。デンマークに引っ越さないか?」

プラスチック製の組み立てブロックをつくる、世界的おもちゃメーカー「レゴ」。夫は子どもの頃からレゴマニアで、そこで働くチャンスが舞い込んできたというのです。

最初は驚き抵抗するヘレン。しかし、ジャーナリストの血が騒ぎ、ひとまずデンマークについて調べはじめます。そしてわかってきたのは、この国が「世界一幸せな国」と呼ばれる理由の数々(2021年度に国連が発表したWorld Happiness Reportでは、デンマークは幸福度ランキング第二位。第一位はフィンランド)。

職場での幸福感を追求する労働環境
教育や医療など、行き届いた社会福祉制度
生活に根づく「ヒュッゲ」の習慣

今年の目標はたったひとつ、「デンマーク的に暮らす」こと。(中略)これから12か月間、さまざまな視点からデンマーク人的な生き方を探っていくつもりだ。この分野の専門家に相談し、時に懇願し、時に脅しをかけ、時にうまく取り入って、世界で名高い「デンマーク人の幸せ」の秘訣を教えてもらい、デンマーク人はどのように暮らしているのか見せてもらう。一『幸せってなんだっけ?』より

調べれば調べるほど好奇心が刺激され、ヘレンはロンドンでのキャリアに終止符をうつことを決意します。彼女がデンマークで取り組むのは、いわば「幸せ探しプロジェクト」。社会学者・ヨガの先生・デザインミュージアムの館長などに取材して回り、北欧のライフスタイルについてイギリス人向けにレポートしようともくろんだのです。

 
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