取材が行われたのは稽古が始まる前。現在の映像作品では難しい、1ヶ月という長期間にわたる稽古期間に、期待に胸膨らませているそう。

「映像はその日に撮るシーンが決まっていて、一晩寝てやっぱり違うと思っても、翌日じゃあそのやり方で、ということができません。でも、舞台には、本番までにトライ&エラーができるので、とても楽しみなんです」

『セールスマンの死』は、第二次世界大戦後のアメリカを舞台に、資本主義の社会で露わになった、過酷な競争や家庭崩壊といった問題をひとつの家族を通じて浮き彫りにしていく物語。鈴木さんが演じる、主人公のウィリー(段田安則)の妻・リンダは、自分のことは二の次。理想的な家族のカタチを何とか保とうと、敬愛する夫や、二人の息子のために尽くします。

「一読してすぐは、女性の描き方が定型的な印象を受けました。リンダは夫を心から愛していたのかもしれませんが、その時代の女性には男性を信じるしか生きる道がなく、それが自分の生きる唯一のすべだったのかもしれません。残念なことに、それが好ましい好ましくないに関わらず、戯曲が書かれた時から70年経った今でも、この状況はあまり変わっていないと感じました。だからこそ、この作品が『現代に通じる』と評されるのでしょうね。

私自身に子どもがいることもあって、息子たちにとって、リンダはどういう存在なのか、とても興味があります。ただ、“ウィリーの妻”“息子たちの母”という、家族におけるステレオタイプな役割だけではない、リンダを見つけられたらと思います」

 


年を重ねて失うことよりも、増えていくことを数えていきたい。

 

過去では夢と希望に満ち溢れていた家族たち。しかし、年月がたって時代は変わり、自らも老いてゆき、厳しい現実にぶち当たります。

「作品では、年を重ねるネガティブな面が強く描かれているように思います。でも、年を取ることは仕方がないけど、どう感じるかは、自分の気持ち次第ですよね。年を重ねて失うものじゃなくて、増えていく素敵なことを数えていけるといいですよね。人間関係だったり、知識や思い出という財産が増えていく。私は、そう思います」