公私混同と社会的責任とがあいまった“夫婦”という肩書き【真夜中の読書会】_img0
 

こんばんは。編集・川端です。「真夜中の読書会〜おしゃべりな図書室」、第99夜を迎えました。

 


今夜のお便りをご紹介します。

ペンネーム・ベゴニアさんからいただきました。

「5年付き合っていた彼氏にプロポーズされました。それぞれの実家や親戚に挨拶したり、これから一緒に住む家を探したりしています。彼のことは好きだし、結婚も嬉しいけど、変わっていく周りの状況になんだか自分の気持ちだけが取り残されているような気になります。『これがマリッジブルーってやつか~』なんてちょっと呑気に構える自分がいる一方、なんとなく不安と感じる自分もいて、嬉しいはずの変化を素直に喜べなくなってしまっています。そんな自分の気持ちと向き合うような本があれば教えてください」

今夜はもうひとつご紹介します。

ペンネーム・ホンキリンさんからいただきました。

「毎日夫の介護をしています。友達や知り合い、ケアマネージャーさんなど色んな方たちに頼って助けてもらっていますが、どうしても自分の人生の貴重な時間を奪われてると思ってしまい、イラついて夫にあたってしまいます。夜中何度も起こされて寝不足が続くと叫びたくなります。介護を面白おかしくさせてくれるような、気持ちが軽くなるような作品があったら教えてください」

どちらもリクエストにお答えしたいなとずっと考えていたお便りでした。

今夜の勝手に貸出カードは、川上未映子さんのエッセイ集『人生が用意するもの』にしました。

これから結婚されるちょっとマリッジブルーなベゴニアさんと、旦那さんの介護をされているというホンキリンさん。お二人に同じ本をおすすめする理由は、本編で詳しくご紹介するとして……。

『人生が用意するもの』は、2012年8月に初版が刊行された単行本で、2011〜12年にかけて週刊新潮や日経新聞に掲載されたエッセイをまとめたものなんです。多くの章で2011年3月11日の東日本大震災のことに触れられています。

震災直後、何度もループして流れた被災の映像、真偽のわからない噂、不謹慎発言へのバッシング、政府の発表への不信感など……。刻一刻と変わる状況や世論に、ザワザワしたり胸痛めたりする思いを川上未映子さんが綴っています。

今またコロナ禍の混乱や理不尽な武力行使に、それに対するニュースや周りの反応などに、なんとも言葉にできない不安感や、やり場のない怒りに心押しつぶされそうな方も多くいらっしゃると思います。川上未映子さんの言葉が少し救いになるかもしれないと思いご紹介しました。

自分の中でもうまく整理できない負の感情を、生々しく言葉にしてくれる文筆家の方ってやはりすごいなと思ったのと、エッセイってこんな効き目の長い効用もあるのかとあらためて思いました。

そして、有事の際の“夫婦”と“夫婦でない関係”の違いについても考えさせられるのでした。人が人の“人生に用意するもの”とは、何なのでしょう。

さて、次回は第100夜を迎えます。皆さまからのお便りたくさんご紹介したいと思います! 本のリクエストや番組に関するご感想、メッセージなどお待ちしております。


<今夜の勝手に貸出カード>

私が持っているのは上の単行本なのですが、2017年に「ぜんぶの後に残るもの」と「人生が用意するもの」を合本化した文庫『すべてはあの謎にむかって』が出ていました。もしこれからお求めになるなら、文庫が分量的にもお得かもしれません。 

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『すべてはあの謎にむかって』川上未映子(新潮文庫)


【第99夜】公私混同と社会的責任とがあいまった“夫婦”という肩書き


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リクエスト、ご質問も引き続き募集しております。番組内で採用された方には、バタやんがセレクトした本を1冊プレゼントいたします。

<次回>
3月16日(水)22時配信予定

下記よりご感想、メッセージをお待ちしております。


撮影/塚田亮平

 


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