『かもめ食堂』以来、『めがね』『プール』『マザーウォーター』『ペンション・メッツァ』など、のんびりした場所の日常を演じてきた小林聡美さん。最新作『ツユクサ』では昭和な空気が残る西伊豆を舞台に、小さな日常とそこに訪れた恋に一歩踏み出す主人公・芙美(ふみ)を演じています。新しい恋や新しい世界に足を踏み入れるのがちょっと怖くなる40代、50代は、「何かを起こすこと」よりも「何がか起きること」を期待してしまいがち。そんな中で「何かを起こすこと」を恐れない小林さんの生き方と、映画は、そんな大人の女性の幸せの見つけ方を教えてくれそうです。

【小林聡美】50代から大事なのは、健康と覚悟と友情と。奇跡を受けとる心の柔らかさも_img0
 


「キスしてもいいですか」ってすごくいいセリフだなと


「日常にドラマを求める人」について話したら、「そんな人いるんですかね? 疲れちゃいませんかね?」と答える小林聡美さん。その日常の楽しみはどんなものですか?

 


「そうですねえ、ちょっとしたことでいえば、空を見ることですかね。雲の形とか夕焼けの色とか、そういうの見るのが毎日楽しいです。夜寝る前に月の方角を確認したりとか。お散歩も、よくしますね。電車に乗ってどこか遠足に行ったり。最近は江の島に行って、おいしいシラス丼を食べました。いろんな種類の桜が見られる、多摩の植物研究所みたいなところにも行きましたね」

「日常を楽しむプロフェッショナル」ともいうべき小林さんは、だからこそすごく楽しそうに日常を演じます。最新映画『ツユクサ』では、西伊豆の小さな田舎町でひとり暮らす(ちょっと過去のある)女性・芙美(ふみ)を演じています。

【小林聡美】50代から大事なのは、健康と覚悟と友情と。奇跡を受けとる心の柔らかさも_img1

©2022「ツユクサ」製作委員会

「台本を読み終わった後になんて可愛いお話なんだろうと。子供の語りから始まって、芙美が隕石にぶつかるのも、そこから少しずつ何かが動いてゆき、みんなが幸せな方向に向かっていくのも。実は企画から完成まで10年あったそうで、最初にいただいた台本には、芙美が自分の年齢を気にしているようなセリフもあったんですが、何度か改稿するうちにそれが削られていきました。ここ10年で、女性の立ち位置や性別の役割も変わってきているし、松重豊さん演じる相手の男性も、“壁ドン”的雰囲気じゃなく、ちょっと不器用で紳士的。キスする前に『キスしてもいいですか』って聞かれるのもなんかとても新鮮な感じで、すごくいいセリフだなと思いました。今の40代って昔の40代と違ってすごく自由じゃないですか。結婚しない人とか子供を産まない人とか人生の選択のバリエーションも増えているし、だからこうした大人の恋愛のお話も、あまり深刻にならずに軽やかに描けるのかなという気がします」