パン・シヒョクがRMとSUGAに伝えたこと


ホン:私は、 BTSやRMの知的な部分や歌詞に、パンさんがそこまで影響を与えたとは思っていないんです。

なぜならパンさんはもともと、J.Y.Parkさんと一緒に長い期間仕事をしていたのですが、当時パンさんが作った歌詞は、女性の恋愛ソングなど、非常に大衆的でした。また、J.Y.Parkさんがアメリカにいち早くガールズグループを進出させようとしていた時も、一緒にやっていたそうです。
※J.Y.Park: JYPエンターテイメント創業者。日本ではNiziUプロデューサーとしても有名

その経験からアメリカの市場の内側を知り、どうしたらアメリカ市場で成功できるのか色々考えたのでしょう。アーティストの育成については、アメリカのレーベルシステムの影響も受けています。その時に彼が思いついたのが、アイドルではなくヒップホップのグループを作ることだったのではないかと私は思っています。

小島:ではパンさんは、「この状況で売れるものは何か」の最適解を出すのに長けているということですね。

BTSが持つ「ソフトな男らしさ」。彼らが世界に見せた、全く新しい男性のイメージとは?_img2
BTSの産みの親である、パン・シヒョクプロデューサー

ホン:BTSは「ヒップホップアイドル」としてデビューしました。しかし本来、「ヒップホップ」と「アイドル」というのは矛盾する言葉です。アイドルというのは、システムや誰かの手を借りて作られたもの、ヒップホップというのは自分の魂から歌うオーセンティシティーが重要ですよね。

 

それを可能にしたのが、RM、そしてSUGAとの出会いでした。練習生になる前からもともと、RMとSUGAはアンダーグラウンドのヒップホップ界である程度名前が知られていたんです。
では、「システムが作ったヒップホップ」をどう実現するのか。そこにパンさんの遺伝子が受け継がれているのです。

パンさんは、RMとSUGAに「自分たちで感じたことをメッセージとして書いてみなさい」と言いました。韓国に生きるひとりの若者として、感じていることを自由に書くよう言ったそうです。

実際どれぐらい自由だったのかはわかりかねますが、一般的なK-POPのグループよりもはるかに多い自由度を与えられたと聞いています。もちろんアイドルグループでもあるので、曲作りには専門家の力を借りていますが、ほぼ全ての曲のクレジットにRMやSUGAの名前がありますし、J-HOPEもだんだん曲作りに参加するようになりました。今では、それぞれのメンバーが曲作りに参加するようになっています。

BTSが教養のある集団と見られているのは、パンさんだけの力ではなく、RMやSUGA自身の才能があったから。それをアイドルシステムにのせていったのではないかと思います。

小島:プロデューサーとして、アーティスト自身の言葉の力を信じて任せ、それを生かす形で成功に導いたということですね。相手を対等に扱う姿勢というか、パンさんのある種の謙虚さの表れのようにも感じられます。

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オンラインで対談するホン教授と小島さん

――メンバーたちを信じ、彼らに自由度を与えて曲作りに参加させたパン・シヒョクプロデューサー。だからこそ、BTSはK-POPの枠を超えた存在だと言われるグループに成長したのかもしれません。

次週はいよいよホン教授との対談・最終回。K-POPアイドルであれば必ずぶつかると言われる年齢の壁をBTSは今度どのように乗り越えていくのか、見解を語っていただきます。

欧米の人たちが抱く、古典的な「男性像」を大きく変化させたBTS
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1 写真:AP/アフロ
2 写真:AP/アフロ
3 写真:ロイター/アフロ
4 写真:代表撮影/ロイター/アフロ
5 写真:Lee Jae-Won/アフロ

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『BTS オン・ザ・ロード』
ホン・ソクキョン 著
桑畑優香 翻訳
2021年6月11日発売
A5変型判 272頁
定価:本体2100円
発売・発行:玄光社

BTSが切り開いた世代・文化・人種・ジェンダーに対する新しい考え方によって、世界地図はどう再配置されたのか。そこから生まれる、新しい文化と享受体系とは。そして、BTSは、どうやって世界で最もパワフルな現象を作ることができたのだろうか。

本書ではその理由を、韓国でも最高レベルの韓流分析家、ソウル大学言論情報学科ホン・ソクキョン教授がBTSのヒストリー、文化的、社会的、メディア的な観点から詳細なデータやグラフとともに多角的に解き明かしていきます。

取材/小島慶子
翻訳/桑畑優香
担当編集/小澤サチエ
 

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