昭和の残像を「今」の視点で捉え、骨太で圧巻させられる作品に終えた後の脱力感といったら・・・時代の移り変わりで「任侠」への捉え方も変わり、西川美和監督の「すばらしき世界」や藤井道人監督の「ヤクザと家族」のような現代社会において、行き場のない反社の葛藤を描くような問題作は近年増えてきた今日、昭和ど真ん中のヤクザ映画はこの時代と共に忘れ去られようとしています。

正直、私も「もう任侠の時代じゃないよね・・・」と思ってましたが、白石和彌監督が描く「孤狼の血」は汚職に塗れながらも正義を貫こうとする「マル暴」の葛藤を描き、きれいごとでは片付けられない、まさに『毒は毒で制す』という感覚が妙にリアル。人間の業や弱さを生々しく描かられた作品に心抉られました。

日本アカデミー賞「孤狼の血」の授賞式で優秀賞を受賞された白石和彌監督(左)と編集の加藤ひとみさん(右)。

熱を帯び露骨で力強さを感じさせる作品の中に、人の脆さやヒューマニズムが垣間見えれるシーンは胸に深く刺さり、観る人の心を鷲掴み。この骨太な作品の編集をする人もきっと骨太な男性だと思ったら大間違い(笑)。

以前にもご紹介させていただいた外山監督作品ソワレで、編集を担当いただいたのが加藤ひとみさん。彼女は白石監督作品にずっと携わっている売れっ子敏腕編集者です。

加藤ひとみ・かとうひとみ/1980年生まれ、愛知県出身。日本映画学校卒業後、アニメ制作会社・東京キッズに入社。編集者の今井剛に師事し、『世界の中心で、愛をさけぶ』などで編集助手を担当する。2004年から今井剛の事務所・ルナパルクに所属し2007年編集技師デビュー。 2015年にフリーランスとして独立後、白石和彌監督・三島有紀子監督作品ほか数々の映画やテレビの編集者として活躍中。「チェリまほ THE MOVIE ~30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい~」も公開中。

見た目とても可愛く、一見フェミニンな雰囲気に包まれて穏やか。でも、編集室にこもって仕事を捌く彼女の姿は実にハンサム。相手がどんなに偉い監督やプロデューサーであっても、臆することなく、自分の意見を持って対峙できる姿は、名監督が彼女に絶大な信頼や安心感を持って作品を託せる理由がよくわかります。 

映画「ソワレ」完成のお祝いにて。左奥が加藤さん、手前私で、右が外山監督。

先日、白石監督の最新作「死刑にいたる病」のトークイベントでご一緒に登壇し、「肝となるダンスシーンを編集でカットされて・・・(笑)」と長編デビュー作品を振り返り、そう語った監督。もちろん、彼女は監督の意図を無視するようなことは絶対にありませんが、作品の良し悪しが出るのはまさに名編集者としての技量あってのこと。どんな肝のシーンであっても、オーディエンスがその先の想像力を掻き立てたり、見えないその先の世界へ引き込むことがむしろ大切だったりします。そういう塩梅を図りながら作品を豊かにしていく調味料的な仕事が「編集者」で、映画の要的存在であり陰の立役者。

休みに入ると大量の本を図書館で借り家に持ち込んで、猫たち過ごす時間が至極幸せだという加藤さんですが、既に頭の中にスクリーンがあって、本を読んでは、映像をご自身で組み立てたりしているのでしょう。まさに想像力と感性を働かせることが彼女の天職。

加藤さんのインスタより。猫ちゃん3匹とパートナーと暮らす生活。彼らの表情も豊かでとても可愛く、ついつい私も見入ってしまうんです(笑)

スタジオに篭り出したら長時間の作業&売れっ子となれば息つく暇もなく次の仕事へ。「映画が好きでたまらないから辛いと思ってことがなく」素直でストレートな言葉を聞かされて、素敵な笑顔の裏にある気骨ある精神は、人生「好き」であることの大切さを今さらながら感じます。

死刑にいたる病 「とても穏やかでいい人でしたけど」「おとなしい人でしたけどね」一見良い人と思われる隣人の素顔は殺しを重ねる罪人。その心の闇を阿部サダヲさんが怪演。

白石和彌監督の最新作「死刑にいたる病」が絶賛公開中。映画愛溢れる女性編集者加藤ひとみさんのことを心の片隅に思い浮かべながら観ていただけると嬉しいです!