日本も2050年にカーボンニュートラルに。実現可能?
堀:カーボンフリーは「排出する二酸化炭素がゼロ」という意味です。再エネは、バイオマス以外はカーボンフリー。パリ協定が目標として掲げるカーボンニュートラルは、「排出される二酸化炭素が、木々が吸収する二酸化炭素が同量」で、CO2排出実質ゼロ、という意味ですね。
アツミ:最近、都心の木々の伐採のニュースを聞きますが、木々を残すこともカーボンニュートラルにとって意味のある事なんですね。政府は2050年に日本もカーボンニュートラルに、と言っていますが、率直にどう思います?
堀:今の感じでは、ちょっと難しい気がします。とりあえずは2030年に設定されている目標(2013年度比の46%)を目指すというところなんですが、それも積み上げで行っても無理……という結論にしかならないので、ここは各省庁、農林水産庁なども巻き込んで、太陽光パネルを置ける場所はないか、という話はしています。火力発電にカーボンフリーな燃料である水素やアンモニアを使うとか、二酸化炭素を地中に埋める技術、固形化する技術など、本当にいろんな種類の技術を組み合わせていかないと。
アツミ:二酸化炭素を利用する技術もあると。すごいびっくりしました。
堀:そうした技術開発へどんどん投資もしていかないと、本当に悲惨な未来が待っていると思います。失われた20年30年の間に何もしてこなかったツケがまさに今来ていて、そろそろ日本は周回遅れになりつつあるし、2050年にも間に合わなくなってしまいますよね。
生活サイクルを自然エネルギーの効率に合わせていく
バタ:2050年ってずっと先に思えるけど、意外と近い感じもしますよね。私、ちょうど70歳くらいかあ……。
堀:人間の世代交代ってだいたい30年ぐらいで、自分ごととして考えられる期間もそれが限界、その先の事は後回しにしがちなんです。だから政策もなんとなく30年で区切ってるところがあって。でも、子供を持つとそのくらい先のことって考えますよね。2050年って、ちょうどうちの長女が今の私と同じ歳になるんですよ。そのころには日本の人口が一億を割って8000万人台になり、 おそらく消滅している自治体もたくさん出てくる。そういう部分まで想像しながら、どうやってソフトランディングにしていくのかっていうことですよね。
アツミ:次世代のために、自分が生きていく環境のために、ある程度の痛みは許容していくことも必要なのかも。
バタ:電気代の値上げとか、節電とかでしょうか。
堀:今までの世の中のあり方を変えていく、当たり前に享受してきた便利さを「手放す」ことも、少しずつやってかなきゃいけないのかもしれませんよね。でもやみくもに「節電!」ということでもないんですよ。太陽光発電では「夕方は少し抑えて、昼間はじゃんじゃん使ってください」みたいな部分もあるので、背景を理解しながら、生活サイクルをそこに併せてゆくというのが大事かもしれませんね。
・「日本のエネルギー 2021年度版 『エネルギーの今を知る10の質問』」(Q.再エネだけでエネルギーを賄うことはできないのですか?)/経済産業庁 自然エネルギー庁
・「波や潮流の力で発電 海洋エネ、英新興や九電が開発 実用化へコスト低減」/日本経済新聞
◆「パリ協定」とは
2015年にパリで開かれた「国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)」で合意された、温室効果ガス削減に関する国際的取り決め。195の国と地域、EUヨーロッパ連合が締結。具体的な長期目標は「産業革命前からの世界の平均気温上昇を「2度未満」に抑え、できれば平均気温上昇「1.5度未満」を目指す。そのために、できるかぎり早く世界の温室効果ガス(二酸化炭素、一酸化二窒素、メタン、フロンなど)排出量をピークアウトし、21世紀後半には、温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる」こと。各国は成目標を提出し、達成のための国内対策をとる義務がある。
・「Amazon、Googleのデータセンター電力調達が、日本の電力勢力図を変える」/EnergyShift
・「ソニー、気候変動領域における環境負荷ゼロの達成目標を10年前倒し」/ソニー
・「ヒューリック 2025年までに自然エネルギー100%へ 非FIT太陽光発電所を自社で開発・利用」/ヒューリック
取材・文/渥美志保
構成/川端里恵(編集部)
堀ナナ2021年にTensor Energy株式会社を共同創業。「テクノロジーの力で電力のGXとDXを加速する」をミッションとして、再エネ運用プラットフォームを展開。2022年6月に再エネと蓄電池のファイナンスマネジメントサービスの試験運用を開始。AIとIoTによる再エネ&蓄電池の運用最適化、電力や環境価値のアルゴリズム取引を行うSaaSを開発。映画プロモーターからキャリアチェンジして、 2011年に戦略系コンサルとして再生可能エネルギー業界へ。2016年に再エネファイナンス、再エネ発電事業者としてスピンアウト。事業開発チームをリードし、累計300億円の太陽光発電プロジェクトの組成、開発、建設に従事。持続可能なエネルギーを全ての人に届ける世界を作るための挑戦を続けている。Tensor Energy株式会社。