こうして僕は突然兄を喪った弟を演じることで、借りパクした本を返し、怒られることを回避するという、イーサン・ハントばりのミッションインポッシブルをなし遂げた。それから数年後、ふと思い出したようにこの話を懺悔代わりに女友達にすると、彼女は何でもないような顔でこう言った。

「そんな面倒くさいことせんでも、夜中に返却ポストに返しておけばよかったんじゃないん?」

………。

ほんまやん!

対面で返却するのが誠意ではあるものの、そんなに怒られたくないのなら、こそっと返却ポストに返してしまえば、それでおしまいだったのだ。しかし、追いつめられると人は正常な判断力を失う。なぜか当時は正面突破することしか頭になかった。その結果、遺族の弟を演じるという不謹慎な嘘までつく始末。たぶん今頃、閻魔様が僕の舌を引っこ抜こうと全力で素振りしてる。

結局、面倒を嫌うあまり、より面倒な事態になるのが人生というもの。そうはわかっているのに、この性格を治すのもまた面倒くさくて、今日に至るまで面倒くさいと言い続けて生きている。

ただ思うに、僕みたいな面倒くさがりはこの世に山ほどいるはず。むしろ巷の便利商品なんてものは、こういう面倒くさがりたちがいかに楽をして生きるかを考えた結果、生まれたものなんでしょう。そこで、お掃除ロボットなんてものを買ってみたものの、フィルターをお手入れするのが面倒すぎて、僕のルンバはもう4年くらいずっとベッドの下で眠っている。文明の進化が、生来の面倒くさがりに負けた瞬間でした。

図書館の本を返すためだけに一芝居打つハメになった、超・面倒くさがりな僕の話_img0
 

だから、こんな面倒くさがりにとって大事なのは便利さではなく、モチベーションなのである。とりあえず布団をほしたら坂口健太郎が「よくがんばったね」と労ってくれて、アイロンをあてたら林遣都が「えらい」と褒めてくれて、確定申告を期限通りに終えたら赤楚衛二が「お疲れ様」とお祝いしてくれるサービスとかできたら、この面倒くさがりもだいぶ治ると思うので、どっかのエラい人、何卒よろしくお願いします。

 

追伸、この原稿を送ったら担当の編集さんから「お願いですから3年前の書類を早く返送してください」と言われました。また……面倒なことが……ひとつ増えてしまった(白目)。

イラスト/millitsuka
構成/山崎 恵
 

 

図書館の本を返すためだけに一芝居打つハメになった、超・面倒くさがりな僕の話_img1
 

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