辞めたくないのに「辞めたい」と言い、「いつまでボクシングをやるの?」と言われて答えられず、「痛いのはイヤ」と言いながらボクシングが好きで……その気持ちは矛盾だらけで、到底説明はできません。でもその矛盾のまま「わかる」と思えるのはどうしてなのか。込み上げるものを感じながら発したその言葉に、岸井さんはひとつひとつ「うん、うん、うん」とうなずき、三宅さんが続けます。

三宅:おそらく矛盾というのは別にダメなことでもなんでもなくて、シンプルな答えが欲しいと思いながらも複雑なのが、僕たちの内面だし、その複雑さをそのまま撮りたいと思ってシナリオを書いていました。分かりやすく描かれた素晴らしい作品は他にもたくさんありますが、僕は本作では、ふたつみっつのことに引き裂かれたような心と体を撮りたいと思っていました。ラストシーンでケイコが何を思っているのか、それはもう全く一面的に捉えられません。シナリオに明確に書くことはできないけれど、つまり言葉では説明がつかないようなことが起きているけれど、あのケイコの表情や姿を目にさえすれば、必ず観客の皆さんにもストレートに伝わると信じています。

【岸井ゆきの×監督・三宅唱】「痛い、辞めたい」でも…女性ボクサーの矛盾を演じて思うこと【映画『ケイコ 目を澄ませて』】_img0

 

岸井:言葉にならないですよね。ケイコだって言葉にならないんですよね。

三宅:見てくれた方に「ちょっと言葉にしていただけませんか?」ってお願いしたいですね。ぜひ皆さんがケイコさんをどう受け止めたのか、どう見たか、映画を見た後にリアクションしていただけると嬉しいです。

岸井:どう感じたか知りたいし、教えてほしい。本当にあらゆる角度から見られる作品だと思うし、とにかくとにかく見てほしいです。絶対に、スクリーンで!

 

<映画紹介>
『ケイコ 目を澄ませて』

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嘘がつけず愛想笑いが苦手なケイコは、生まれつきの聴覚障害で、両耳とも聞こえない。再開発が進む下町の一角にある小さなボクシングジムで日々鍛錬を重ねる彼女は、プロボクサーとしてリングに立ち続ける。母からは「いつまで続けるつもりなの?」と心配され、言葉にできない想いが心の中に溜まっていく。「一度、お休みしたいです」と書きとめた会長宛ての手紙を出せずにいたある日、ジムが閉鎖されることを知り、ケイコの心が動き出すー。

監督:三宅唱
出演:岸井ゆきの、三浦誠己、松浦慎一郎、佐藤緋美、中原ナナ、足立智充、清水優、丈太郎、安光隆太郎、渡辺真起子、中村優子、中島ひろ子、仙道敦子、三浦友和
原案:小笠原恵子「負けないで!」(創出版)
脚本:三宅唱、酒井雅秋
配給:ハピネットファントム・スタジオ


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撮影/Minyoung An (STUDIO DAUN)
スタイリスト/Babymix
取材・文/渥美志保
 

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