「イタリアワインに人生を捧げた男」―そう評される内藤和雄さん。ソムリエとして料理人として、イタリア20州を廻り、ワインと料理の関係性を追求し続けた結果は、2010年から食の専門誌「料理通信」で、「これだけは知っておきたい イタリア土着ブドウ品種」として連載されていました。

しかしその旅は、イタリア4周目が終わろうとする頃に、突然終わりを迎えます。2019年、内藤さんは白血病で逝去。病を口外することなく仕事を続けていた内藤さんの死によって、連載は78回で途絶えました。
その土地のブドウ品種、ワインと、それに合う郷土料理を綴った連載が、『土着品種でめぐる イタリアワインの愛し方』として1冊にまとめられました。その中から、春夏秋冬の一例を紹介します。

 


ピエモンテの春

 

春の定番はグリーンアスパラガス。アスパラと玉ねぎをブイヨンで煮て裏漉し、卵と生クリームを加えてオーブンで湯煎にするスフォルマート。そしてこのやさしい前菜に合わせるのは、ランゲ地方のアルネイス種の白ワイン。フルーツのコンポートのような甘やかさのある品種だそうです。

ピーマンの肉詰めにワイン? アリアニコとの意外な相性

 

南イタリア・カンパーニア州で栽培されるアリアニコ種。青っぽい野菜のようなフレーバーが特色の赤ワインになります。ピッツァソースのトマトやなす、しし唐にピッタリだと内藤さん。「日本の夏野菜や、ピーマンの肉詰めなんてバッチリでしょうね」と結んでいます。

 

内藤さんが書き続けたテイスティングノート。毎朝の日課であったワインの試飲とその印象を書き留めています。独特の迫力ある筆致は、イタリアワインへの情熱と執念を刻み込んだデザインのよう。


冷えた体を温めるズッパとプティ・ルージュ

 

アルプスを越えればフランス、というヴァッレ・ダオスタ州。1000メートルを超える高地で栽培されるのが、呼び名もフランス語のプティ・ルージュ種です。わずかな太陽光を懸命に取り入れるために、ブドウ畑はすべて南向きに作られています。内藤さんが訪れた冬、午後3時にはうす暗く、侘しさに心が締め付けられそうだったとか。そしてそこで冷えた体を温めてくれたのは、ちりめんキャベツとフォンティーナチーズのズッパ(スープ)でした。


「こういうタイプのワインを、細くても長く愛してほしいな」

 

サルデーニャで内藤さんが選んだひとつがヴェルナッチャ・ディ・オリスターノ種。ヴェルナッチャの語源は「その土地固有の」だと言います。地元のチーズ、ペコリーノ・サルドの上にからすみをのせて齧りながら、ヴェルナッチャ・ディ・オリスターノをちびりちびり。日本酒に通じる飲み方で、「日本人にはわかってほしいな」。


郷土料理と土着品種ワインの密接な関係


イタリアの土と風に誰よりも触れ、愛したレジェンド内藤さん。旅するようにイタリアワインを味わい尽くす本書は、内藤さんを慕う仲間たちによって企画され、イタリアワインが好き、イタリア料理が好き、イタリアを知りたいという人たちに読み継がれてほしいとの思いから実現しました。

「土着のブドウに注目すると、イタリアの風景や営みが見えてきます」という言葉通り、聞いたことのある品種、好きなイタリア料理など思いつくままにページを開いてみれば、ガイドブックのようにそこからストーリーが広がり、紀行文のように楽しめます。

書籍紹介>
『土着品種でめぐるイタリアワインの愛し方』
内藤和雄・著 価格:3080円(税込み) 講談社・刊

 

 

構成・文/からだとこころ編集チーム