高尚な作品というよりも、私たちのすぐ近くにいる人たちの話

 

ーー兄・朔太郎の慶子への評価は「心がさもしい 面倒くさがり わがまま 物事を表面でしか見ていない」と辛辣です。でもそれは「能動的 現実的 効率重視 正直 自分の意見を持っている」現代的な女性と言い換えられる。日本が戦争に突き進む暗い時代において、彼女は異端の存在かもしれませんが、現代社会を生き抜くヒントを感じます。

嬉しいです。この映画はもしかしたら「文芸映画?」「戦争映画?」ととっつきにくく見えるかもしれませんが、私たちのすぐ近くにいる人たちの話だと思っています。片嶋一貴監督がウェットになりすぎないように、三好が悪者にならないように、慶子が不幸に見えないように、全体を見渡しながらジャッジされていたんだなと思います。

 

ーー現代的なテーマがいくつも含まれていますよね。愛は大義名分になるのか? 女は愛するより愛される人生が幸せなのか? 国家と自分を同一視した先に何があるのか? など、脚本家や監督の問いかけが伝わってきます。

そういった答えがはっきりとわからないものを投げかけるものが映画だと思っています。私としてはぜひ観ていただいて、いろんな意見を聞きたいなと思いますし、「三好のどうしようもないポイント」とか(笑)、観た方同士で感想を語り合ってもらえたらすごく嬉しいです。この映画を観た男性は、やろうと思っていない仕事を求められた朔太郎と、世間に受け入れられなくても自分が書きたいものを書いている三好のシーンに共感する方が多いような気がします。それも興味深い感想ですよね。

ーー最近観た映画で、入山さんに刺さった映画はありましたか?

『彼女のいない部屋』がすごく良かったです。家族のお話で、旦那さんとお子さんがいて、主人公の女性が家を出ていくところから映画が始まって。ミステリー仕立ての脚本も、女性の描き方も良かったです。作品の中でこんな風に生きられたらいいなと思いました。そのために、役者としても人間としても、経験を重ねていかねばいけないなと改めて思いましたね。

ーー彩女と慶子を演じた入山さんが、今後、どんな女性を演じるのか、どんな作品に出演するのかが本当に楽しみです。

自分が出ているから(その作品を)見たいと思ってもらえる役者になりたいとずっと思っているので、そう言っていただけると嬉しいです。これから舞台でも、映画でも、もっと没頭できて意見を言い合える、現場をたくさん経験したいなと思っています。そして、一言で片付けられない感情や、他人に見せたくない考えみたいなものを表現できる役者になりたいです。

 

入山法子 Noriko Iriyama
1985年生まれ、埼玉県出身。2004年にモデルとしてデビュー、2008年から本格的に女優としての活動を開始する。主な出演作に映画『ハッピーフライト』、ドラマ『霧に棲む悪魔』(東海テレビ)、『きみはペット』(フジテレビ)、『祝女〜shukujo〜』シリーズ(NHK)など。2022年はドラマ『雪女と蟹を食う』(テレビ東京)の彩女役でも話題に。

<作品情報>
没後80年「萩原朔太郎大全2022」記念映画
『天上の花』

原作:荻原葉子「天上の花ー三好達治抄ー」
出演:東出昌大 入山法子
浦沢直樹 荻原朔美 林家たこ蔵 鎌滝恵利 関谷奈津美
有森也実 吹越満
脚本:五藤さや香 荒井晴彦
監督:片嶋一貴
©︎2022「天上の花」製作運動体

2022年12月9日(金)、新宿武蔵野館ほか全国順次公開


撮影/塚田亮平
スタイリング/小川恭平
ヘアメイク/美舟(SIGNO)
取材・文/須永貴子
構成/山﨑 恵