遠方に住む父の食事問題


ママ友の栄子さんは実家が長崎で、私たちの住む神奈川からは気軽に通える距離ではありません。幸いお父さんは体が丈夫でまだ70代後半。介護の心配はないそうですが、食事中によくむせるようになり、医師からは嚥下障害という食べ物を飲み込みづらい状態になっていると診断されたようです。

これまでお母さんがそれ用の食事を作ってきたそうですが、これからはお父さんが1人で対応しなければなりません。食事のために介護施設に入るのも……と栄子さんは悩んでいました。

高齢の親の食事について、何かアドバイスをいただけますか?


高齢者食や介護食はどう作る?


お二人が悩んでいるように、高齢になると繊維質の食材が噛みきれなくなったり、飲み込む力が低下するなどして、通常の食事をしづらくなる方が増えてきます。そこで「高齢者食」や「介護食」と呼ばれる食事をとるようになります。

美里さんのお義父さんの場合、同じメニューでも、噛みにくい食材をひと口大に切ったり、隠し包丁を入れるだけで食べやすくなります(一般的にはこれを高齢者食と呼びます)。特別な食事を作る必要はなく、ちょっとした工夫で口にしてくれるようになるでしょう。

それでも食べるのが難しくなった場合は、介護食を作ることになります。介護食とは、加齢によって噛む力や飲み込む力が衰えた方でも安全に食事ができるよう、調理方法を工夫した食事のこと。日本介護食品協議会では、噛む力・飲み込む力に合わせて、食べる種類の食事を4段階に分けています。

■区分1「容易に噛める」きざみ食通常の大きさの食べ物を2〜3mmに細かく刻んだもの。噛む力が弱くなってきた方や開口障害のある方向きで、とろみをつけることで誤嚥を防ぐこともできます。

■区分2「歯ぐきでつぶせる」ソフト食
■区分3「舌でつぶせる」ソフト食かなり柔らかくなるまで煮込んだり、食材をミキサーにかけてから固めたりしたもの。噛む力が低下しているけれど飲み込むことは平気な方、両方の力が低下している方向き。歯のない方や入れ歯の方にも最適です。

■区分4「噛まなくて良い」ミキサー食、流動食ミキサー食は、その名の通り食べ物をミキサーにかけたもの。トロトロの状態で、スムージーを想像してもらうとわかりやすいかもしれません。噛む力はほぼなく、飲み込むことも難しい人に向いていて、嚥下障害のある方や寝たきりの方にもオススメです。流動食は液状の食事で、葛湯や具なしのスープ、果汁などがこれにあたります。病気やその治療などで消化器官が弱った方に向いています。

最近では、これらの食事を簡単に作れる便利な調理家電も登場しています。たとえば、介護経験のあるパナソニック出身者が開発したDeliSofter(デリソフター)。料理の見た目と味はそのままに、噛まずに簡単に飲み込める柔らかさに調理してくれる画期的な製品だと注目を集めています。

 
 

食べやすさに配慮した食品は今や2000商品以上!?


美里さんのように近くに住む方が介護食を作ってあげられる状況であればいいですが、ママ友の栄子さんのように離れて住む親の場合は、必要に応じて市販の介護食を活用するのもひとつの手です。

日本介護食品協議会では、食べやすさに配慮した食品を「ユニバーサルデザインフード」と名付け、商品のパッケージに規定のマークを入れています。高齢者の増加に伴い、ユニバーサルデザインフードは年々増え続け、2021年の時点で登録商品数は2214にものぼります。

キユーピーは今から25年前の1998年、日本で初めて家庭用介護食の販売を開始しました。噛む力や飲み込む力に応じて選べる「やさしい献立」シリーズは、現在全52種類を揃えています。公式サイトには、製品を使ったレシピや高齢者が食べやすくなる調理の工夫なども載っているので、参考にしてみてはいかがでしょうか。

高齢者施設に向けて総勢170品目の冷凍介護食を製造しているシェアトップのマルハニチロも、オンラインで家庭用介護食を販売しています。他にも、食べる力に合わせて約40種類の商品を発売しているアサヒグループ食品など、家庭用介護食のラインナップはさまざまです。

日本介護食品協議会のサイトでは、各社から発売されている商品が簡単に検索できます。噛む力・飲み込む力別に商品を検索することもできるので、自宅で介護食を作る方もメニューの参考にしてみてはいかがでしょうか。


介護食をもっと知りたい方へ


最後に、相談者の美里さんは「介護食の知識を活かして将来的に介護施設で働くことも視野に入れている」と話されていましたが、その場合は、介護食士がお勧めです。比較的認知度が高い関連職種を以下に挙げましたが、介護食士は段階があるので、就労後にさらに知識を深めたい場合にも役立ちます。いずれも受験資格に制限はありませんので、どなたでも受けることが可能です。

 

介護食を食べるような状態に至らずとも、高齢になると食欲が湧かなくなる方は増えてきます。食べる機能は少しずつ低下していくため、本人も周囲も気がつきにくいもの。ですが「食べることは生きること」と言うように、食事は生きているうちは毎日続くものです。親御さんと話す際には、「最近ちゃんと食べれてる?」のひと言を掛けてみてはいかがでしょうか。


写真/Shutterstock
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
編集/佐野倫子

 

 


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