自分の中でいちばん柔らかい声を出すようにしています
——佐山卓も発達障害を抱えている当事者ですが、役づくりではどんな準備をしましたか?
山崎:自分でも発達障害について調べたのですが、撮影が始まる前に脚本家の吉田紀子先生が佐山の設定を詳細に記したノートを提供してくださいました。生い立ちや細かな行動の特徴まで、これまで受け取ったプロットの中でいちばん丁寧に描かれていたので、それが役づくりにおいて大きな指標になっています。
また、撮影現場にADHD(注意欠如・多動症)とASD(自閉スペクトラム症)を持っている方が監修に入ってくださって、当事者の視点で僕らに意見を伝えてくださるんですよ。そのおかげで、ちょっとした動作でも違和感がないか確認しながら丁寧に進めることができています。苦戦したのは、佐山さんらしい身体の使い方を探すこと。彼は毎日のルーティンとして体操をするのですが、僕は少し前まで『エリザベート』というミュージカルをやっていたので、無意識のうちに背筋をピンと伸ばしてしまうんです(笑)。できる限りリアルに見えるように相談しながら、バランスを調整しています。
——数あるルーティンの中にチェロを弾くことも含まれているため、クランクイン前にレッスンに通われたそうですね。
山崎:自分で決めたルーティンをやらないと気持ちが落ち着かないことも発達障害の特性のひとつですが、チェロの音色を好むのは佐山さんの優しくて柔らかい人柄を物語っている気がしました。弦楽器の中で、チェロはいちばん人間の声に近い音域を奏でられるんですよ。バイオリンの強い音よりも身体に馴染みやすいから彼はチェロを選んだのではないかと。
僕も音楽学校に通っていていた頃からチェロは身近な楽器でしたし、その音色も好きなので、偶然ではあるものの、音に敏感であることが僕自身と佐山さんのいちばんの共通点かもしれません。だからお芝居においても、特に子どもたちと話すシーンでは、チェロの心地良い音色を意識しながら、自分の中でいちばん柔らかい声を出すようにしています。チェロを弾くのは初めてでしたが、1時間ほどのレッスンで、先生から1年習っている人と同じくらい上達しているとお褒めの言葉もいただきました。
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