新年ならではのポカーンとした頭に、じんわり栄養が染み渡るような本を読みました。

『編めば編むほどわたしはわたしになっていった』(三國万里子/新潮社)
昨年買ってあったのですが、カオスな年末に読む気になれなくて積読……。でもなんだかとても気になって、たまに本の山から取り出して表紙を眺めていました。かわいい、この女の子。
三國万里子さんは、新潟県出身の編み物作家。ニット作品を紹介する本を何冊も出版されています。妹さんは料理家のなかしましほさん。お二人とも、「ほぼ日(ほぼ日刊イトイ新聞)」常連寄稿者さんなんですね。
ほぼ日でも本書が紹介されています→☆
本書は、三國さんの初めてのエッセイ。私は三國さんのことを存じ上げなかったのですが、どなたかがSNSで紹介していたのを見てピンときて書店で探して入手しました。タイトルと、表紙と、裏表紙の帯の「「書く」ことは「編む」ことと似ている―。」という一文。素敵な本の香りがぷんぷんです。
仕事始めした最初の週末、気持ちよくエネルギーを使い切った達成感と共に、「あ、今だ」と思って読み始めました。そこからあっという間!
新潟県に生まれ、祖父母や両親と過ごした子供時代。学校になじめなかったあの頃。寅さんのようなおじさんがくれたスキーセーター。夫となる人との出会いはたばこの香りと共に。息子と夢見た「なめくじの女王様」のこと……。
つれづれなるままに、三國さんの筆は過去と現在をいったりきたり。
小さいことも大きいことも、同じ熱量でつづられる思い出。
一目一目、毛糸を編んでいくような端正な文章。言葉と言葉の間には空気がはらみ、ふっくらとした時間の存在を感じさせます。「豊かな」とか「深い」という言葉では説明しきれない、馥郁とした思いが立ち上ってくるエッセイです。読んでいるうちに、三國さんが編むニットに包みこまれるような……。うん、そうだ。これはニットのあたたかさだ。
「もっと、日々を丁寧に編もう」
本を読み終わった私の中にあったのは、そんな思いでした。この本から感じたあたたかさを、私自身の人生でも感じたい。早送りと強制終了を繰り返すような日々を、少し見直してみようかな。

Comment