日本の賃貸住宅に関する法律は、諸外国と比較して住宅を借りる人の権利が強く、大家さんはよほどのことがない限り、住人を追い出せない仕組みになっています。これは、太平洋戦争で多くの国民を徴兵したことから、戦死した兵士の家族が路頭に迷わないようにするという国家総動員法の影響が大きかったと言われています。戦後も、法律の趣旨が継続したことから、基本的に大家さんは住人を追い出すことが難しいというのが現実でした。
先ほど紹介した家賃保証会社は、実態に合わなくなった法律の問題をうまく解消する目的で広がってきたとも言えます。しかしながら、大家さんがいくら厳しい状況にあるとは言え、法律は法律ですから、この範囲を超えて強制的に入居者を追い出すことはできません。
今回の判決は、法の趣旨に沿った極めて妥当なものと言ってよいでしょう。
一方で、時代に合わない商習慣を放置し続けると、大家さんの側の審査が厳しくなり、経済的弱者が逆に家を借りられなくなるという本末転倒な事態も十分に考えられます。
日本の不動産価格は高騰しており、首都圏の新築マンションの平均価格は6000万円を突破しました。ここまでくると、もはや一般庶民では新築マンションを買うのは不可能ですから、今後は一生賃貸という人も増えてくるでしょう。
こうした状況で、経済的な基盤を持たない人が家を借りられない、ということになると、高齢者など社会的弱者が住む家をなくすという問題が発生する可能性があります。
賃貸住宅の借り主と貸し主はあくまで対等な立場で商行為を行うものであり、借り主は借りた分についてはしっかりと対価を払う義務があります。 一方で、住宅を貸す人は、借り主の職業などによって貸す貸さないを判断すべきではありませんし、脱法的な行為で住人を追い出すようなこともあってはならないでしょう。一定期間、家賃の滞納があった場合には、諸外国のように司法・行政の手続きを経て、粛々と強制退去を実施する仕組みが必要でしょう。
今後は高齢化もさらに進みますから、賃貸住宅に住んだ状態で亡くなる人も増えてくると予想されます。こうした現実も踏まえ、より現実的な法の解釈や運用が求められています。
前回記事「藤田ニコル「今まで本気じゃなかったんだ」首相発言へのコメントから考える、政治家の“言葉の重み”」はこちら>>
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