「介護=親のそばにいる=親孝行」。そんなイメージを持っていませんか? これを打ち破るだけで介護はグッと楽になります、と語るのは編集者・山中浩之さん。会社勤めをしながら認知症の母親の介護していた山中さんは、「自分は介護をしない」という考え方を学ぶことで、自分も親も穏やかに過ごせるようになっていったといいます。

山中さんはこれを「親不孝介護」と命名し、著書『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』を上梓。自身の体験を振り返りながら、NPO法人「となりのかいご」の川内 潤さんと共に、公的支援の利用メリット、遠隔介護のすすめなど、親の介護で自滅しないための方法を解説しています。

そこで今回は本書から、ブリヂストン、電通、コマツなど多数の企業で、1700件超の介護相談を受けてきた川内潤さんが考える、会社で仕事ができる人ほど陥りやすい「親孝行介護」の罠について、対談形式でお届け!(聞き手=山中浩之さん)

仕事ができる人ほと、「やってはいけない介護」をやりたがる

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川内 潤さん(以下、川内) 人事の方にまず知ってほしいのは「社員が介護の実務をこなすことを、会社が支援してはいけない」ということ。これが大前提です。

 

ーー介護の実務というのは。

川内 おむつを交換したり、食事の世話をしたり、要は社員が「親の面倒を直接見ようとする」ことです。こういうことを考えている社員がいたら、支援するんじゃなくて、止めてほしい。

――早めに地域包括支援センターに相談→介護保険の利用→介護のプロとタッグを組む、僕が言うところの「親不孝介護」、じゃなくて、自分自身が手を出す「親孝行介護」をしようとしている社員がいたら、「ちょっと待って!」とブレーキをかけましょう、ということですね。でも親の介護を自分でやりたがる人って、やっぱり多いんですか。

川内 多いです。そしてこれは、企業内での個別相談で強烈なまでに突きつけられたんですが、「会社員として現場の仕事ができる人ほど、親も自分も燃え尽きるような、『やってはいけない介護』に突き進んでしまう」んです。

――会社にとっては、「優秀な社員ほど介護離職してしまう」ということになりかねませんね。えらいこっちゃ。

川内 まったくその通りで、企業の人事施策上の大問題です。最初はとても不思議でした。「こんなに有能で、前向きで、賢い人たちが、なぜ介護になると、自滅へ向かう選択をしようとするのだろう」と。

――優秀な人ほど、「いわゆる親孝行」に熱心なんでしょうかね?