言葉と誠実に向き合い、言葉を育てる

「子どもたちの心を育てるためには、言葉を育てることが肝要だ」。俳人・夏井いつきさんが『瓢箪から人生』で教えてくれるもの_img0
写真:Shutterstock

ここからは本書から、夏井さんの「言葉」や「俳句」に対する思いが語られた、印象的な箇所を紹介します。

俳人の耳を持ち始めれば、一瞬すれ違うだけの一期一会でも、十分聞きとめられる。
――『瓢箪から人生』P189より

 

子どもたちの心を育てるためには、言葉を育てることが肝要だ。言葉で繋がり合ってこそ、お互いの気持ちが分かり、自分の複雑な感情も伝えることができる。伝えなければ分かり合えないし、分かり合えなければ心も荒んでいく。言葉と心は、車の両輪みたいな関係にあるのだ。
――『瓢箪から人生』P172より

 

言葉が心を育てるのだ。言葉とは、生きて在る私たちが、次の世代を生きる子どもたちへ伝えられるエネルギー源でもあるのだ。
――『瓢箪から人生』P212より

 


筆者も「言葉」を生業にさせていただいている一人ですが、夏井さんは俳人としてだけでなく、人としても、「言葉の力」を強く信じている方だとひしひしと感じるのです。

 

俳句は心明るく生きていくための「杖」

「子どもたちの心を育てるためには、言葉を育てることが肝要だ」。俳人・夏井いつきさんが『瓢箪から人生』で教えてくれるもの_img1
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さらに、夏井さんは俳句を「人生の杖」と表現しているのが印象的です。

人間はいつかどこかの段階で、なんらかの形で自分で歩くことができなくなる。自宅か病院のベッドか、そこに我が身を置くこととなる。百パーセント、皆同じ道をたどる。そんな最後の最後の時間まで、俳句ならば自分を慰めたり、喜ばせたり、笑わせたり、ホロリとさせたり。俳句はさまざまな感情とともに心明るく生きていくための杖となれる。
――『瓢箪から人生』P201より

 


この本の中では、様々な人の俳句もたくさん登場します。
その俳句から、詠んだ人が見たもの、感じたものを想像する夏井さんの感性がとても豊かで驚かされます。実際紹介される句はどれもとても個性的で、何気ない日常の景色を、その人ならではの視点で切り取ったものばかり。

俳句と聞けば少し敷居が高いように感じますが、実際はとても自由で、誰でもその気になれば思い思いに表現することができるのだなと感じます。

そして何より、この本を読んで、夏井さんの紡ぐ言葉の美しさが印象的でした。
夏井さんの俳句や文章は、情景や、そのときの心情、感触までも鮮やかに描き出します。
においまでもが漂ってくるような、体温を感じさせる文章。
言葉選びが巧みで、かつ表現がどっしりしており、そしてとてもみずみずしい。

テレビ番組で垣間見られる夏井さんの豪胆さの一面だけでなく、物事をとらえる感性の豊かさがありありと伝わってくるのです。

俳句が繋いでくれる様々な人との一期一会の出会いから、どんなことを感じられるか、をとても大切にされていることがわかります。

言葉で表現することは、日常の通り過ぎていく景色や出来事を見る視点を変え、人生を豊かにしてくれる。そんなことを教えられる本です。
 


写真/Shutterstock
文/ヒオカ
構成/金澤英恵

「子どもたちの心を育てるためには、言葉を育てることが肝要だ」。俳人・夏井いつきさんが『瓢箪から人生』で教えてくれるもの_img2
 

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