「社会正義」は世界のキャリア支援の最重要ワード
「社会正義(social justice)」という考え方は、今、世界のキャリア支援の場において、最も重要なキーワードとなっているそうです。本書は、その本質と最前線を紐解く内容ですが、「社会正義のキャリア支援」とはそもそもどのような支援なのでしょうか。下村さんは次のように教えてくれます。
「キャリアガイダンス、キャリアコンサルティング、キャリアカウンセリングを全部ひっくるめて“キャリア支援”といいますが、社会正義のキャリア支援を一言でいうと、キャリア支援を通じて『社会的に正しいこと』を追求しようという考え方です。
『社会的に正しいこと』をさらに説明すると、人種や性別、社会的地位で差別されない、平等であること――といえます。“基本的人権の尊重”のために、全ての人に職業選択の自由が保障されるよう、不平等だったり、困っている人に対しても、社会の“障壁”を取り除くようなキャリア支援を行う必要があるのです」(下村さん)
では、社会正義のキャリア支援が必要なのはどんな人なのか。下村さんの本では、次の例が挙げられています。
移民、難民、外国人、シングルマザー、LGBT、若年者、高齢者、障害者、非正規就労者、公的扶助受給者、低賃金者、失業者、無業者、未就職者、学校中退者、低スキル・低学歴の就労者、受刑者……
――『社会正義のキャリア支援:個人の支援から個を取り巻く社会に広がる支援へ』より
競争から「周辺に追いやられた人」たちへの支援が必須
これらの人たちを、下村さんは「周辺に追いやられた人」と表現しています。ここに「社会正義のキャリア支援」が行われなければ、公正・公平さがない状態になり、一部の人が不利になる労働市場になってしまう、と下村さんは言います。
「今ではリスキリング(学び直し・勉強してスキルを身に付けること)という言葉をよく聞くようになりましたが、従来は年収を上げるためとか、もっといい企業で働くこと、いわば労働市場で“より高みを目指す”ためのサポートが伝統的なキャリア支援でした。一方で、そうした競争を煽り立てるようなキャリア支援だけでいいのか? という反省が出てきました。
なぜなら、社会的に不利益な状況にある人、マイノリティの人、非主流派の人、すなわち少数派の人たちは、どうしても労働市場の競争から追いやられてしまうからです。そこにも目配せをしてキャリア支援をしていこうという動きが、欧米においても2000年代くらいから強くなっていきました」(下村さん)
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