行政の支援を利用することは、恥ずかしいことではない
――日本だと弱者が顔や名前を出して発信したり、権利を主張すると、本当に叩かれるんですよね。例えば、貧困なのに何でスマホを持ってるんだとか。もうちょっと切り詰めればどうにかなるのにとか。イギリスだと弱者が権利を主張することに対するネガティブな感じがあまりないのでしょうか。
藤田 もちろん、全くないわけじゃないと思うんですよ。イギリスにも問題はたくさんあって、日本より深刻なものだってあります。ただ、例えばお金がない人がいたら「どうしてこういう制度があるのに申請しないんだ」って周りが言ったりするんです。生活保護とか住宅補助とか、病気で働けない人のための援助とか、行政の支援制度を利用することが恥ずかしいことだとは思われていないからです。権利なんだから使えばいいのに、という感じで。
《参考》生活保護の捕捉率(受給水準にある人のうち、実際に受けている人の割合)
2010年度調査
日本 :15.3~18%
イギリス:47~90%
出所:【あけび書房】「生活保護『改革』ここが焦点だ!」(生活保護問題対策全国会議【編】)より
だから、本当は支援申請できるはずの人が申請していない、といった割合は、日本よりは全然少ないと思います。
インタビュー後編
私たちの人権は「わがまま」ではない。耳が痛いアドバイスを聞き入れ「人権のレンズ」で物事を見る【藤田早苗さん】>>
『武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別』
著者:藤田早苗 集英社新書 1100円(税込)
国際人権とは何か? 日本では人権は守られているのか? 政府は「人権を保障する義務」があるにもかかわらず、じつはそれが守られていないこともあるという。生活保護のアクセスのしにくさが抱える問題、国連から問題視されている秘密保護法・共謀罪、国際人権法に反する日本の入管法など、国際人権の視点を通して日本の現在地を知り、望ましい社会とは何かを考えるきっかけになる一冊。
取材・文/ヒオカ
構成/金澤英恵
藤田早苗(ふじた さなえ)さん
法学博士(国際人権法)。エセックス大学人権センターフェロー。写真家。同大学で国際人権法学修士号、法学博士号取得。名古屋大学大学院国際開発研究科修了。大阪府出身、英国在住。特定秘密保護法案(2013年)、共謀罪法案(2017年)を英訳して国連に通報し、その危険性を周知。2016年の国連特別報告者(表現の自由)日本調査実現に尽力。2023年日隅一雄・情報流通促進賞奨励賞受賞。著書に“The World Bank, Asian Development Bank and Human Rights“ (Edward Elgar publishing)。