人権は思いやりだけでは守られない――。
そう指摘するのは、『武器としての国際人権 日本の貧困・報道・差別』(集英社新書)の著者であり、国際人権法の法学博士でもある藤田早苗さん。人権は漠然としたものではなく、国連の条約に基準が明記されたとても具体的なものだと言います。人権とは何か? について改めて詳しく掘り下げるこのインタビュー。

前編では、人権の「思いやりアプローチ」の危うさ、日本に不足する基本的人権の教育についてお話を伺いました。後編では、日本が人権を守る国になるために必要な“クリティカル・フレンド”とは何か、マイノリティの人権を回復しようとするとマジョリティが反発する問題などについて伺います。

インタビュー前編
人権は誰が守る?日本は人権後進国?今こそ知っておきたい「人権とは何なのか」【藤田早苗さん】>>


「自分だけは大丈夫」ではなく、人権問題は全部繋がっている

写真:Shutterstock

――何度も問題に上がっている日本の入管問題ですが、入管に収容される外国人の方って、日本人の仲間意識から外れてしまう存在なのかなと思います。でも、外国人の人権が守られない国で、果たして政府が市民の人権を守ろうとするのかと考えた時に、同じ国で起きている人権問題は、誰にとっても無関係ではないと思います。藤田さんが本の中で、
 


「生活困窮者の人権を大切にしない国が、子どもや女性、障害者やさまざまなマイノリティのひとを含めたすべての人の人権を尊重するだろうか。社会で弱い立場の人の人権や尊厳がどれくらい尊重されているか、ということは、その国・社会が尊厳や人権を一般的にどれくらい尊重しているか、というバロメーターでもあるだろう」
 


と述べられていように、一番弱い立場の人の人権が守られるかどうかは、その国の人権の水準を表すのだなと。

藤田 結局、人権問題は全部繋がってると思うんですよね。政府がどの方向を見ているのかというのが、一つの問題からわかると思うのです。たとえ今は問題を自分事にできなくても、いつかは自分にも降りかかってきます。入管の問題だって、日本に住んでいるとなかなか自分事にできないかもしれませんが、日本人も海外旅行したり、出張で海外に行ったり、そんなときでさえいつどこで逮捕されるかわからないですよ。何かのきっかけで、自分が入管に収容されている外国人と同じ状況になる可能性だってあります。

貧困問題だってそうです。死ぬまで病気もせず、収入があり、安定した生活が送れるかどうかなんてわかりません。障害を負うことだってあるでしょう。日本は地震大国ですから、被災者にならないと断言できる人なんていないわけですよね。いつ弱者になるかわからないんです。そう考えると、他人事じゃないっていう想像力は必要ですよね。かといって、自分の利害だけでしか想像できなくなるのも問題です。自分に跳ね返ってくるかどうかという視点だけじゃなく、「どういう社会を望むのか」が大事ですよね。

――藤田さんと谷口真由美さんの対談で知ったのですが、カナダの人は貧しい人の人権が脅かされる問題が起きたとき、富裕層もデモに参加するそうですね。自分に関係なくても、望む社会のために、デモに参加するっていう文化は日本にはないなと思います。安全圏にいると、なかなか想像力が持てないからだと感じます。