実は「プラスチックの収納ケース」に入れてもいい
しかしながら、桐箪笥がないから着物をもてないと考えるのは間違いです。
プラスチックの衣装ケースに着物を入れておくのはだめなのか、という質問をよく受けます。私は仕事着で出番の多い着物は、プラスチックの収納ケースに入れています。風通しを怠らなければカビは発生しません。
さらに絹自体は虫の好物ではないので、本来は虫に食べられる可能性は低いのです。虫に食べられてしまうのは、食べこぼしなど虫の好物がついているときです。虫食いを防ぐためにも、季節ごとの汚れチェックは重要です。一方、ウールは虫の好む素材なので防虫剤が必要です。ウールの着物と絹の着物を一緒に入れておくと、本来は虫は食べないはずの絹も一緒に食べられてしまうことがあるため、絹は絹だけでまとめて保管したほうが安心です。
また、着ていないものと着たものを同居させるのも良くありません。どんなに気をつけていても着たものはさまざまな汚れがついているので、汚れから発生した菌類が新しいものにも伝染してしまい、着ていないのにカビが発生したり黄ばんだりしてしまうことがあるからです。着た着物と一度も着ていない着物は違う棚に収納するなど、置き場所を変えるようにしてください。
「お着物を置物にしないこと」が一番のお手入れ
また、たとう紙は着物を守ってくれる強い味方ですが、年月とともに劣化し性能が落ちていくため、3年を目安に取り替えが必要です。
着物の保管のために重要なのは、ダジャレのようですが「お着物を置物(おきもの)にしないこと」です。着物に限らず洋服でも装飾品でも、何年もしまいっぱなしにしていたものを出してみたら、カビが生えたり虫に食われたり汚れが浮き出てきたりしてとても使える状態ではなかった、という経験をされたことがあると思います。しまいっぱなしにしているとケースの中が高温多湿状態になり、カビがどんどん増えていきます。
つまりどんな材質の箪笥に保管するかよりも、置物にせず、こまめに着て手入れをしてあげることのほうが大切なのです。私は特に虫干しはしていません。
著者プロフィール
池田訓之(いけだ・のりゆき)さん
株式会社和想 代表取締役社長。1962年京都に生まれる。1985年同志社大学法学部卒。インド独立の父、弁護士マハトマ・ガンジーに憧れ、大学卒業後弁護士を目指し10年間司法試験にチャレンジするも夢かなわず。33歳のとき友人が父の跡を継ぎ経営する呉服店に拾ってもらい着物の道を歩み始める。着物と向き合うなかで着物業界のガンジーになろうと決意、10年間の修行を経て、2005年鳥取市にて独立、株式会社和想(屋号和想館)を設立。その後鳥取から島根、山口へと6店舗を展開。一方で2015年に海外店舗をロンドンにオープン。2012年からは、和想館に併設して和カフェ事業・Cafe186を5店舗展開。現在はコロナ禍の影響により海外店他一部閉鎖。国内の鳥取、島根にて5店舗の和想館&Cafe186と、さらにオンラインショッピングサイトを展開中。
『君よ知るや着物の国』
著者:池田訓之 幻冬舎 1650円(税込)
着るのが難しい、窮屈で動きにくい、約束事だらけで不自由……。着物に対するネガティブイメージを抱く人に、「もっと気楽に、もっと自由に、着物を楽しんでほしい」との思いの元、着物の世界へと誘うのは、自らも呉服店を営む著者。着物への思い込みや先入観で最初の一歩が踏み出せない人に、優しく丁寧に「着物の楽しさ」を教えてくれます。入門編としてだけでなく、文化や伝統としての着物にまつわる知識も得られる、本格的な一冊です。
写真/shutterstock
構成/金澤英恵
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