若い人に言いたいのは、一度にやろうと思わないこと
ーーミモレの読者は今40〜50代の女性が多いのですが、子育てや仕事、身体の変化、早い人では親の介護など、ありとあらゆることが降りかかってくる世代でもあります。そうした中で、やりたいことができないのは自分のせいと考えてしまう人も多いです。
私もそういう経験はしてきましたが、大事なのは、一度に全部やろうと思わないことです。その時その時、目の前にあることを一生懸命やっておけばいいんですよ。人って、案外長生きだから。子育て、仕事、親の介護、全部順番でいい。山積みになっているものを一度平らにのばして、今はこれを最優先、次はこれというように、できることからやっていけばいいんです。これはもう大きな声で言いたい、若い人たちに。
やりたいと思っていることを今はできなかったとしても、“10年後はできるかもしれない。できるようになったらやればいい”と割り切る。ある種のあきらめも持つ、でも夢としてはとっておく。そうすると、その時がくればちゃんと自分も準備ができていて、できるようになるんだと思います。
私も子どもが小さい頃、仕事したい仕事したいと思っている時期がありました。でも、もういいや、できる時にできると突き放した。それで何年かしたら面白い仕事の話が来て、ああ、今やればいいんだ!と思ったんです。そういうのを一つひとつ繋げて、綱渡りのように生きてきましたね。
ーー仕事ができないことでの焦りもありましたか。
焦りましたよ。でも、後から振り返るとそんなに大したことないんですよ、その時やりたいと思っていた仕事は。別にやらなくて大丈夫だったなと思える。
大事なのは今、目の前に起きていること。それをクリアすることで次に行ける。解決しないでまわり道して行こうとすると、どこかでまた同じ問題がくるんです。これまでの経験から、私はそう思いますね。今やれること、やるべきことを一生懸命やれば、絶対に次のドアは開けてくるから。だから、できないのを誰かのせいにしてはだめ。もちろん自分のせいにする必要もないですけれどね。
今思うと、子育ては面白かったですね。もう本当に大変だったけれど、でも同時にすごくエネルギーが湧いてきたし。なんて楽しかったんだろう、充実していたんだろうと今は思えるんです。20年近くの間、うわああああって叫びながら全力疾走してるような感じで、ずっと怒ってばかりいたけれど、それでもなんとか無事に育ってくれたので。案外大丈夫です、子どもは育ちます。
原田美枝子 Mieko Harada
東京都生まれ。1974年にデビュー以降、映画、ドラマ、舞台などで幅広く活躍。76年、映画「大地の子守歌」「青春の殺人者」でキネマ旬報主演女優賞など9賞を受賞。85年、黒澤明監督「乱」に出演。98年「愛を乞うひと」で日本アカデミー賞主演女優賞など多数受賞。近年の出演作に映画「百花」「そして僕は途方に暮れる」、ドラマ「俺の話は長い」「ちむどんどん」など。舞台では「メアリー・ステュアート」「誤解」などに出演。自ら制作・撮影・編集・監督を務め、母を主演にしたドキュメンタリー映画「女優 原田ヒサ子」がNetflixにて配信中。8月25日よりドラマ「雲霧仁左衛門6」(NHK-BSP)が放送予定。
<作品紹介>
PARCO劇場開場50周年記念シリーズ
『桜の園』
作:アントン・チェーホフ
英語版:サイモン・スティーヴンス
翻訳:広田敦郎
演出:ショーン・ホームズ
出演:原田美枝子 八嶋智人 成河 安藤玉恵 川島海荷 前原滉 川上友里 竪山隼太 天野はな 永島敬三 中上サツキ 市川しんぺー/松尾貴史、村井國夫
東京公演:2023年8月8日(火)〜8月29日(火)
会場:PARCO 劇場
※8月7日(月)プレビューオープン
※宮城、愛知、大阪、広島、福岡公演あり
撮影/目黒智子
スタイリスト/坂本久仁子
ヘアメイク/CHIHIRO(TRON)
構成・文/山崎 恵
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