日本では宮崎駿監督の最新作『君たちはどう生きるか』がポスタービジュアルとタイトル以外の事前情報なし、広告活動一切なしで公開し、封切りから4日間で興行収入21.4億円を叩き出して話題になったばかりですが、こちらは公開よりかなり前からのプロモーションで「観たい」気分を盛り上げて大成功した、というお話。

この夏のエンタメ界で最も注目されていた、マーゴット・ロビー&ライアン・ゴズリング主演の『バービー』と、クリストファー・ノーラン監督の最新作『オッペンハイマー』の同日上映開始対決。7月21日についにアメリカで公開し、全米ではその週の全作品による総興行収入が、約4年ぶりに3億ドルを突破しました。映画館に再び人々が戻ってくる突破口となりそうな気配です。

映画「バービー」ワールドプレミアより、主演のマーゴット・ロビーとライアン・ゴズリング。写真:AP/アフロ

中でもグレタ・ガーウィグ監督作品の『バービー』は、公開週の興行収入が155ミリオンドル、日本円でおよそ219億円で、これは女性監督史上最高のオープニング成績という快挙。『オッペンハイマー』に、およそ2倍の差をつけての圧勝です。

たしかにマテル社のバービー人形は世界中で愛されるおもちゃであり、原爆の父と呼ばれるJ.ロバート・オッペンハイマーの伝記映画『オッペンハイマー』よりポップで、みんなが観に行きたいとなる夏休みの需要にフィットしたのかもしれませんが。それにしても、なぜここまでの大ヒットを成し遂げられたのか。その一因はこの作品の、素晴らしいプロモーション戦略にあると思います。

 


まず、最初に公開されたティザー映像は、『2001年宇宙の旅』のオープニング映像のオマージュ。海辺で遊ぶ子どもたちが昔ながらのミルク飲み人形で遊んでいるところにバービーとケンが現れ、子どもたちは人形を放り投げてバービーに夢中になる、というシュールなもの。バービーのガーリーなイメージに、いきなりの『2001年宇宙の旅』という意外性。これだけで、この映画が単なる女子向けのお気楽ムービーではないことが伝わってきます。


バービーとケンが人形の世界を抜け出してリアル・ワールド(=人間の世界)を経験する、というのがストーリー。様々な人種と体型のキャラクターたちが登場する今作品の真のテーマは、どうやら“セルフラブ”にある模様。


公開前から公式サイトでは、どんな画像も『バービー』の映画ロゴ風に加工できる“バービー・セルフィー・ジェネレーター”を配信。これを使用して人気映画のキャラクターや海外セレブの画像を加工したものを、皆がこぞってSNSに投稿するのがブームに。映画のかなりいい宣伝になっていたはずで、うまいなあ、と感心しました。

バービーの世界を再現するため、撮影のセットにはピンクの塗料が大量に使われ、そのため世界中でピンクの塗料が品薄になるという現象も。撮影に使われたピンク尽くしの「マリブ・ドリーム・ハウス」では、ケン役のライアン・ゴズリングがホストを務めるこの家に泊まれるという、限定宿泊サービスも実施(サービスは抽選の上、すでに終了)。これは近くにあったら、私も絶対に応募してしまっていたはず!


さらにファッション業界でも、「バービーコア」という、ピンクを用いたバービー風の着こなしがブームに。これは2022秋冬のコレクションで、ヴァレンティノがヴィヴィッドなピンクのコレクションを発表したところから火がついたものですが、映画の公開に向けてバービーコア旋風は勢いを増し、セレブやファッショニスタたちがこぞってピンクを着用。

映画の撮影風景が報じられるたび、マーゴットのリアル・バービーな装いからインスピレーションを受けて、世の中の“バービー気分”がますます盛り上がっていました。もちろん公開直前の映画のプレミアイベントでは、マーゴットが過去のバービー人形のワードローブのアーカイブを再現した、美しい衣装を次々に披露。