インフラを支える労働者たちの「見えない化」を防ぐために

「送料無料って言うな」に思わずドキッ。「顧客至上主義」に染まっていた自分に気づく1冊の本_img4
写真:Shutterstock

この「送料無料」という言葉は、消費者に「運送の仕事は本来必要のない“コスト”」という感覚を埋め込ませる。その思い込みは、宅配はもちろん、企業間輸送にも広がり、結果的に物流全体に対する軽視、そして第一線で社会インフラを支える労働者たちの「見えない化」に繫がっていくのだ。
――『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』より
 
 


自分の仕事は軽視されたくないと思いながら、誰かの仕事を無意識に軽視している。しかも、それをサービスや恩恵と捉えてしまう危険性に、本書は気付かせてくれる気がします。最近では橋本さんのところに、「自分の商品、今まで送料無料という言葉を使ってきたが、送料弊社負担に変えました」というメッセージも届くようになったそう。

さらに消費者庁では、『「送料無料」表示の見直しに関する意見交換会』が継続的に行われており、「物流の『2024年問題』と『送料無料』表示について」では、物流業を支える人々の課題と併せて、消費者への理解を訴えています。

橋本さんの本では、個人の宅配に限らず、「国の血液」とも称される「企業間輸送」についても詳しく言及。物流・運送業界で働くトラックドライバーは、なんと約84万人! 私の生活インフラを支えてくれるドライバーさんたちが今置かれている環境や、現場の裏側を知ることができる本書を読めば、今日買った食品、今日届いた荷物を手にした時、感じることがちょっとだけ変化するかもしれません。

荷物を届けてくださる汗だくの宅配便のドライバーさんに、「暑い中おつかれさまです! いつもありがとうございます!」とか、気の利いたことも言えない筆者。ですが、「送料無料」に固執しないことから、まずは始めてみようと思った次第です。
 

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『やさぐれトラックドライバーの一本道迷路 現場知らずのルールに振り回され今日も荷物を運びます』
著者:橋本愛喜 KADOKAWA 1595円(税込)

私たちの生活を支えてくれているとても身近な存在なのに、知らないことことだらけのトラックドライバーという職業。物流・運送業界にはどんな課題があるのか。トラックドライバーを取り巻く環境に私たち消費者はどう関わっているのか。元トラックドライバーの著者だからこそ書ける“笑って泣けて怒れる”哀憐エピソード集も交えつつ、「根付く“理不尽”」「ドライバーの社会的地位」「2024年問題」など、消費者としても知っておきたい物流・運送業界の今を伝えます。


コラム漫画/焦げ猫&Nodoka
構成/金澤英恵

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