不動産投資信託「REIT」とは
相談者の清美さんは、老後の資金計画として、不動産購入からの賃貸収入を考えているようですが、物件選びに失敗すると、借り手がなかなか現れず、固定資産税や管理費、ローンだけが発生するという空き家リスクが生まれてしまいます。
昨今は、空き家が深刻な社会問題として取り上げられているにも関わらず、都心の新築物件は増える一方。購入した物件はいずれ古くなってしまうので、最新設備を備えた新築物件には太刀打ちできなくなるかもしれません。
渋澤は、投資というわけではありませんが、不動産選びにおいて失敗した経験があります。その昔、30代になりたての頃にマンションを購入しましたが、その物件は最寄り駅までバス手段のみ。本当は、後々の投資も考えて駅により近い便利な立地を選ぶべきでした。古い、新しい、ということ以前に、立地という面で物件選びを誤ってしまったのです。
利便性の良い物件であれば、家賃収入も安定するので不動産投資は魅力的ですが、どうしても不動産に投資したいのであれば、まずは第一歩としてご友人がお薦めしている「REIT(リート)」という商品から運用するというのも一案です。
REITは小額から始められる手軽で低リスクな投資信託で、「Real Estate Investment Trust」の略。不動産投資信託という意味です。
REITは複数の投資家から集めた資金で不動産を購入し、そこから生じる賃料や売却益を投資家に分配する商品。投資家には株券に相当する「投資証券」が発行され、東証での売買が可能です。
REITであれば、個人では少々難易度の高い不動産投資が、比較的無理のない金額でできるようになります。ですが、あくまでも自身は投資家。所有権を得るわけではありません。
REITと不動産投資の違い
同じ不動産を対象とした投資でも、REITと不動産投資はまったく異なるものです。
前述したように、REITは複数の投資家が預けた資金で専門家が不動産投資し、物件の賃料や売買益を投資家に配当するという金融商品。低リスク低リターンとも言えます。価格の変動リスクはありますが、「売りたい時に売れない」という心配はありません。
一方、不動産投資は現金一括購入またはローンを組んで不動産を購入し、オーナーとなります。賃貸することで家賃収入を得る投資方法で、高リスク高リターンとも言えます。
さらにこの2つは投資額も大きく異なります。REITは数万円から100万円ほどの少額投資ですが、不動産投資はマンション1室でも1000万円~の投資となります。
REITはインフレヘッジとして効果あり?
新型コロナウイルスの影響で、REITは2020年頃に一時的に大幅な下落がありました。オフィスや宿泊施設での利益を見込んでいたものの、解約や倒産で大きな影響を受けてしまったことが要因だと予測ができます。ですがこのところ、高水準で回復傾向も見られます。
日本は長きにわたって物価下落が続くデフレでしたが、2022年から物価の上昇が目立つようになり、インフレの波が押し寄せてきました。インフレになると現金の価値は下がりますが、それに対して不動産の資産価値や賃料は上がります。すると、分配金の上昇や売却益からの利益増も期待できるかもしれません。ただし、価格が安いときに購入できれば高利回りと売却益が得られますが、高値時に購入するとこれらの期待はできません。
もしREITを購入するようであれば、不動産市況の動向は必ずチェックしておきましょう。REIT市場全体がどのような動きをしているかを知るには、「東証REIT指数」が便利です。東証REIT指数は、東京証券取引所に上場しているREITの全銘柄を対象とした「時価総額加重型」の株価指数。2003年3月末の時価総額を1000として、現在の時価総額がどの程度なのかを表しています。
不動産の投資利回りの注意点
ここで不動産投資をしたいという方のために、不動産の投資利回りの注意点にも触れておきます。
収益不動産サイトなどを見ると、一定期間にどのくらいの利益が得られたかという「投資利回り」が記載されています。その数字はだいたい5~7%が中心で、中には10%前後のものもチラホラ。現在の銀行の普通預金の金利は限りなく0%に近いですし、住宅ローンの金利よりは高いので損はないように思います。
ただし、その5~7%という数字だけで損得は判断できません。5~7%というのは表面的な利回りで、建物の管理費や修繕費、物件価値の目減りは考慮されていません。所有するとなれば固定資産税や火災保険は当然かかりますし、入居者が入れ替わるごとにリフォーム代もかかります。また、設備が壊れてしまったら、交換は所有者負担です。それらを踏まえると、実質利回りは大きく低下することを覚えておいてください。
最後に、不動産投資はハイリスクですがハイリターンも見込めます。一方、不動産投資信託「REIT」は低配当ですが、低リスク低リターンで初心者向けでもあります。利益を得るだけでなく、売買のしやすさも異なりますので、投資をする際はそれぞれのメリットとデメリットを理解することが大切です。どちらがいいかは個人次第なので、興味がある方はまずはしっかり勉強してみてはいかがでしょうか。
構成/渋澤和世
取材・文/井手朋子
イラスト/Sumi
編集/佐野倫子
前回記事「【相続税のキホン】我が家の相続どうなってる?その遺産に相続税はかかる?」>>
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