気持ちの区切り、時ぐすり
福本 森田さんのお父さまが亡くなったときのお話も印象的でした。
森田 ウチの父のときはね、いつもの仲間と麻雀をやってて「勝った勝った」って。そしたら笑顔で倒れてそのまま。一緒に麻雀をしていた方々は癌を患ってたりしているんだけど、今も元気でね。父は持病もなかったんだけど。
福本 それはすごく素敵ですよね。お母さんも最期はみんなに囲まれてケアをしてもらって、いい香りだねって優しい顔になって、お父さんの愛も受けて。いろいろな愛情を受けながら亡くなっていく様を見ていて、今はすごくよかったなって思うんです。
森田 うん。
福本 「勝ったぞ!」って言って亡くなるのもかっこいいですね。
森田 でも家族はポカーンってなったけど(笑)。本当だったら2、3日心の整理をする時間くらいは欲しいよね。だから亡くなってすぐのときは、ちょっとした父のなにかに触れるだけでぽたぽたぽたと涙が出てくるとか。それからやっぱり食べられないんだよね。なにかがあるわけではなくて、なんとなく食べられない日々が続いて、もちろん仕事もあるからそれはしっかりやるんだけれど、やっぱり通常とは違うな、っていうのが続いたんだよね。
それでまだ一周忌も迎えてないんだけど、「時ぐすり」ってあるなと思った。2021年の11月に父は亡くなったんだけど、初盆を迎える頃には少しフッて抜ける感覚があったりとか。だから四十九日とか一周忌とか初盆とか、そういうセレモニーには送る側を癒す意味もあると思うんだよね。
福本 たしかに。私はお葬式の意味をそこまで深くわかってなかったけど、お父さんはお葬式までが一番不安定だったかもしれない。終わってから段階を踏んで少しずつ落ち着いていったかも。
森田 だから考えてみると、ひとつひとつ段階があって、落ち着いていくように、ちゃんと設計されているんだよね。悲しいことも忘却させてくれる作用が時間にはあって。今10月だけど私10月8日生まれでね、父の当時の手帳を見ると可愛い子だとか、まん丸だとか書いてあって、「お父さんが20代、30代のときにこんなふうに書いてくれてたんだな」って。
それを読んだときに、自分の中で誕生日の持つ意味が変わって、周りの人にワーッと華やかにお祝いしていただくのもありがたいんだけど、誕生日っていうものが生と死と強く結びついて意味合いがね……。10月に私の誕生日が来て、来月は一周忌。だからなんていうか、自分の中の。
福本 区切り?
森田 うん、区切りかなって。この一周忌を境に、「お父さん見といて。私、本気でやるから」って。
福本 そうですね。私の場合は、森田先生にどこが勝負なのか聞いてたから。「お母さんが帰ってきたときだよ」って。
森田 うんうん。
福本 だからそこにフォーカスすることができたので。それはすごくよかったなって思ってるんです。
『気持ちいいがきほん』
著者:福本敦子、森田敦子 光文社 1980円(税込)
38歳のときにひとつの恋愛がおわり、仕事で転機を迎える。そして、母の死、家族の気持ちの揺らぎ……。美容コラムニストの福本敦子さんは、自分と周りの大切な人たちに一気に変化が押し寄せるなか、「生きること」と「気持ちいいことがきほん」ということについて、考えたといいます。そんな福本さんが綴る温かなエッセイと、福本さんが信頼する人生の先輩・植物療法士の森田敦子さんとの対談、二つのパートから成る本書。大切な人を失う不安に押しつぶされそうな心を、そっと包み込んでくれる一冊です。
写真(著者近影を除く)/Shutterstock
構成/金澤英恵
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