スタイリスト福田麻琴さんが、身の回りの“愛するモノ”について語ります。
何で無理していたんだろう(笑)。
何にあらがっていたんだろう(笑)。
本当、無理してきた自分を笑っちゃいます。
数ヵ月前から、携帯やiPad、本を読む時など、ぼんやりと目が霞むようになってきて、
気のせいだと流していたけど、実はうっすら気づいていた。
来たか、老眼め。
目がいい人は早めに来るよ〜! と先輩方の助言はあったものの、やっぱり本当にそうなったら少し寂しかった。
シミや白髪もそうだけど、老いを受け入れる時はいつも少し寂しい。
これから歳をとるのが楽しみだとは思っているけれど、それとこれとは別の問題。
未知の世界への興味はポジティブなエネルギーに溢れていて能動的になれるけど、受け入れたくて受け入れているわけではないので、老いに関してはどうしたって受動的になってしまいます。
表情で言ったら、苦笑いみたいな。
仕方がないよねぇと笑いながら、心は全く笑っていない。
そんな少しだけ寂しい気持ちになったのは2日間くらいなもので、その後はずっとどんなフレームにしようかをものすごく積極的に考えていました。
Mrs.ポジティブ。
そもそも眼鏡への憧れが強く、さかのぼれば小学生の頃から。
黒板が見えないので前の席を希望している子がいれば羨み、黒板を見るためにスッとかける眼鏡に心底憧れていました。
かっこええ。
それから大人になり、ファッションとしての眼鏡はいくつか通ってきたけど、やっとやっとちゃんとした理由で眼鏡を作ることができるんです。
「最近、霞んできちゃって……」
相談している内容は全くもってかっこよくないが、私からしたら結構イケてる。
視力検査をしたらなかなかのいい記録を叩き出してしまって、アイヴァンの店員さんも苦笑いしてたけど、遠くがどんなによく見えても老眼は老眼らしい。
店内にはたくさんの眼鏡があって、くせものスタイリストっぽいぽってりしたフレームのものから、大御所感が倍増しそうな小さな丸眼鏡。
どんな服にも合いそうなシンプルなデザインにすべきか……。
さて、どうしよう。
だいぶ浮かれていたけど、私が一番老眼鏡を必要としている場面は原稿を書く時と本を読む時だと、ふと我に帰りました。
大体は落ち着いた環境で集中したい時だと思ったので、とにかく軽いやつがいい。
コーディネート優先ではなく、かけてるのを忘れちゃうほど軽いやつ。
この眼鏡をかけてもう黒板を見ることはできないけど、かわりに今こうしてiPadを見ています。
いやぁ、よく見える。
30年以上の月日が流れ、私はやっと憧れを手にしたのです。
写真・文/福田麻琴
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