生きていくために仕方のないことだった


市子を探して彼女が関わった人々を訪ね歩く長谷川によって、映画は「市子は何者だったのか?」を浮き彫りにしてゆきます。そしてたどりついたのが、長谷川同様に市子を探し続けてきた高校の同級生ーー北の存在です。高校時代の市子が起こした「あの事件」にゆきがかり上、関わってしまった彼は、「市子を守れるのは自分だけ」と信じながら、市子の「悪魔性」も知る人物です。「ちゃんと俺と向き合え」と求める北の存在からは、市子が長谷川から去った理由が見えてきます。

杉咲花「本心と行動が伴わないって、誰にでも起こりうること」法の落とし穴で過酷な運命を生きる女性を思う【釜山国際映画祭インタビュー】_img0
 

杉咲:長谷川くんに差し出された婚姻届に筆を入れられないこと、そこに対する苦しみや痛みもあったと思うのですが、もしもサインをしてしまったら、それまでの自分と向き合わなければならなくなる。市子がやってきたことは、生きていくために、仕方のないことだった、彼女にとっての選択肢はそれ以外にはなかった。でもそれがよくないことだということはわかっていたんだと思います。私自身、演じている最中に市子の存在をとても遠くに感じてしまった瞬間があったのですが、今になって思うのは、市子自身にもそういった瞬間があったのではないかなということで。私は、自分の本心と行動が伴わないことって、生きていたら誰にでも起こりうることだと思うんです。