今の家を変えるための“解決法”はリノベーションじゃないかもしれません


恋をしたり、結婚したり、離婚したり。子供が家を出たり、病気になったり、仕事を卒業したり。「あ〜、人生変えたいわ!」と思う瞬間ってありますよね。そんな時におすすめなのが、部屋や家の雰囲気を変えること。別のような場所に住めば、別人になったような気分を手に入れることができます。

そして皆さん、「家を変えたいからリノベしたい」と考えがちですが、必ずしも方法はひとつとは限りません。空間に変化をもたらすには、リノベーションだけでなく、DIY、模様替えという選択肢もあります。例えば壁や天井。持ち家ならばペンキや珪藻土を塗ることができます。家具やテーブルを塗ることも可能です。私にとって、ホームセンターはキラキラのビーズが集まったワンダーランド。いろんな種類のペンキを見たり、真鍮のネジや取っ手を探したり、ワクワクしながら素材を手にしては取り付けた空間を妄想して楽しんでいます。

まずおすすめなのは、あまりお金をかけずに行える「色を意識した模様替え」です。模様替えをする時は、家具やベッドを新調する以上に、実は部屋の印象を劇的に変化させるのは色の配色です。事務所のような黒やグレーで固められた味気ない空間であれば、ブルーと赤、オレンジと緑、水色とレモン色のような相性のいい色の組み合わせを、壁、床(絨毯やラグ)、クッションや絵画などで加えていくだけで、部屋はガラリと変化します。

ワインレッドとグレーをキーカラーとして、コーディネートした部屋。2つの椅子はあえて形と色を変えて、空間に動きを生み出している。

こちらの事例を見るとよくわかります。最初はフローリングやキッチンのリフォームをお願いされましたが、想定していた予算から考えるとそのお金をほかのもの…… 絵やラグ、家具や照明器具に使ったほうが空間は変化すると思いました。予算はそのままに、お持ちだった野崎義成さんの絵から、ワインレッドとグレーを抜き出し、「この色にマッチするラグ、家具、照明器具、クッションなどの小物一式を選ぶ」という提案をしました。

次に考えたのは、照明です。どういう照明器具を選ぶかだけでなく、どの場所にどう配置するか、ということが重要です。例えばペンダントランプには部屋のキーカラーである「赤」に合う落ち着いた銅色を選び、続いてその銅にしっくりくる黒が基調となったランプを装飾物のように低く照らす。この工夫で、他の場所にはない、“One and Only”な、個性的な空間が完成しました。ジャズを聴くのが趣味というクライアントさんでしたので、好きなジャズを深夜まで聴きたくなる空間にすることができました。

 

このように、照明器具は部屋を明るくする機能的役割だけでなく、空間に浮かぶ「彫刻」のような、美を表現する役割を担うことができます。高額な照明器具が必要なわけではなく、「どこに光を置いたら、蛍のような、月のような、太陽のような彫刻を空に浮き上がらせることができるか」というその想像力が重要となります。

こちらは玄関からのスペース。ここでも赤い色をポイントに、スポットライトで絵画を照らすことで雰囲気を作っています。

これまで、家具や照明器具類は一生物だと思われてきましたが、今は個人がいろいろな方法で売れる仕組みも生まれています。もし好みのスタイルが変わったのならば、思い切って「今の自分」に合うものに一新するのもおすすめです。

理想の家に変えたい、そう思ったときにまず思いつくのはリノベーションかもしれませんが、システムキッチンを200〜300万で新しくしただけでは家全体のイメージは変わりません。キッチンの使いづらさが何よりも悩みだということであれば問題ありませんが、あなたが望んでいるのは果たして新しいキッチンだけでしょうか? 自分の理想、望んでいることを改めて洗い出し、整理してみましょう。住まいや暮らし全体を変えたいと思っているならば、同じ予算を活用して、壁をDIYで塗り、照明を変え、家具や絵画、ラグやクッションといった小物で家の配色を変化させることで、家は劇的に変化します。

限られた予算で、あなたはキッチンだけをリフォームをしますか? それとも配色や照明を変えての「模様替え」で家全体を変えますか? 理想の家を叶える方法は一つだけではありません。自分の居心地いい空間はどうやったら作れるのか、考えるだけでもとっても楽しいはずです。


納得のいく家づくり・部屋づくりのための 
〈 HOMEWORK 〉

「もし予算が300万あったら」……リフォームするか、模様替えするか、考えてみましょう!

□ たとえキッチンだけが綺麗になっても、その他はどうですか?
□ 壁を塗り替えるとしたら、何色がいいですか?
□ 家具を買い替えるとしたら、どこの家具がいいですか? 

□ DIYでできることはないでしょうか? 動画などを検索してみましょう。

写真・文/行正り香
撮影/結城剛太

 


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