認知症になるのは決して悪いことではない

 

生きている限り「老い」は誰にでも訪れるもの。自然のなりゆきだからと素直に受け入れる人もいると思いますが、たいていの人は「せめて○○にはなりたくない」と、多少の抵抗を示すのではないでしょうか。その「○○」に当てはまるものとして、真っ先に「認知症」を思い浮かべる人は多いと思います。

 


恥ずかしい、他人に迷惑をかける……なにかとネガティブなイメージがつきまとう認知症ですが、サプリや民間療法をはじめさまざまな予防法が世に出回っていますので、そこに安心感を覚える人は多いでしょう。しかし、そんな現状に疑問を投げかけるのが、医師で小説家としても活躍する久坂部羊さんです。

久坂部さんは自著『人はどう老いるのか』において、認知症の予防・治療に関してこのように語っています。

「認知症という病気の本態は、未だ明確にはわかっていないのです。脳内の異常タンパクは見つかっていますし、認知症のタイプ分けはできていますが、本態は未だ不明です。すなわち現在の認知症の治療は、たとえて言えば、結核菌が見つかっていない時代の結核療法のようなものといえます」

「結核という病気は、結核菌が発見されてはじめて、正しい予防と治療が可能になったのです。認知症は未だその結核菌に当たるものがわかっていないので、あらゆる予防と治療は、結核の通俗療法と大差ないと言わざるを得ません」

「つまり、認知症の予防として確実に有効なものは、ないというのがほんとうのところです」

ここまで断言されると絶望的な気持ちになってしまいますが、久坂部さんは本書において、認知症になって認知機能が衰えることは、決して悪いことではないと唱えています。それはいったいどういうことなのか? 気になる根拠を見ていきましょう。